
五輪に出場する選手の中には、「メンタルヘルス」の不調に苦しむ人もいます。近年はSNSなどで選手自らが世の中に発信する例も。メンタルヘルスのケアは「中高生にも地続きの課題」だそうです。
選手の相談窓口や専門家同行
2021年東京五輪の体操女子団体決勝。16年のリオデジャネイロ五輪で四つの金メダルを獲得し、「史上最高」との呼び声もあるバイルス選手(米国)が出場しました。最初の跳馬で珍しく失敗。するとその後の種目をすべて棄権し、連覇がかかった2日後の個人総合も欠場しました。
理由はけがではなく、メンタルヘルスの不調。記者団に、競技を「あまり楽しめていない」と胸の内を語りました。勝利より心の健康を優先した決断は大きなニュースとなり、選手の心の問題に光が当たりました。
選手のメンタルヘルスについて研究する国立精神・神経医療研究センターの小塩靖崇さんは「東京大会のすばらしいレガシー(遺産)」と評価します。その後もさまざまな競技の選手がSNSなどで自身の心の状態を表明しています。「アスリートだって人間」という言葉もよく聞かれるようになりました。
IOCは昨年7月、「メンタルヘルス行動計画」を発表しました。エリート選手の約3割が不安やうつの症状を経験しているという調査結果を紹介。精神疾患への偏見や、弱さを見せにくい文化慣習などが壁となり、選手自らが助けを求めにくい状況にあると指摘しました。パリ五輪では各国のオリンピック委員会に相談窓口を設けるよう促し、日本からも4人の専門家(ウェルフェアオフィサー)が選手団に同行します。

部活に励む中高生にも共通 自分自身の心の状態を知ろう
スポーツに限らず、メンタルが「強い」「弱い」とよく言います。メンタルヘルスをケアすることは、勝負に直結する心の強さの土台を築くことにつながります。
小塩さんによると、不調は腹痛など体の異変で分かったり、「当たり前にできたことが突然できなくなる」といった主観的な変化として現れたりします。要因の一つは取り巻く環境。特にスポーツ界では中高生の頃から競争にさらされ、「つらくてもがまんして乗り越える」経験を繰り返します。その結果、突然ブツッと心の支えが切れてしまうことがあるのです。
予防や回復のためにできることは、五輪選手も中高生も大きく変わりません。まず大切なのは「自分自身の心の状態を知る」。例えば日々の感情を書きとめる、言葉にできないなら絵で表す。そうして、形をつかみにくい気持ちの「輪郭」を明らかにします。
部活でチームメートと頑張りを認め合い、「ありがとう」などと声をかけるのも重要だと小塩さん。「孤立を防ぐことは相手を救うとともに、自分の心の健康にもつながります」
(朝日中高生新聞2024年7月21日号)

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