
陸上の世界選手権(世界陸上)が9月13日から21日まで、東京・国立競技場で開かれます。日本での開催は1991年と2007年に続き、3回目です。女子100メートル障害でこれまで3度出場し、今大会のアスリートアンバサダーを務める寺田明日香選手(35歳)に見どころを聞きました。(朝日新聞東京本社スポーツ部記者 加藤秀彬)
人類の最速に挑戦 男子100メートル
寺田明日香選手に聞く見どころ
陸上の世界選手権は2年に1度開かれます。4年に1度のオリンピック(五輪)より、短い間隔で世界での自分の立ち位置を確かめられます。
注目はやはり男子100メートル。体一つでどれだけ速く走れるか、人類の進化がわかります。50メートル走だと小学6年生なら、速い人は7秒台で走りますよね。100メートルなら単純に2倍すると14秒ぐらいですが、今の世界のトップ選手は9秒7~8台。ものすごいスピードだとわかると思います。
私は2009年ドイツ・ベルリン大会に出場し、ウサイン・ボルトさんが9秒58の世界新記録を出した瞬間に立ち会いました。声援が大きくて会場が揺れ、国籍に関係なく盛り上がりました。世界新記録は生きているうちに何度も見られません。それを目撃できるかもしれないのです。
優勝候補は24年フランス・パリ五輪金メダリストのノア・ライルズ選手(アメリカ)。日本のアニメが好きで、遊戯王のカードをユニホームにしのばせることもあります。
私が専門とする女子100メートル障害の注目はマサイ・ラッセル選手(アメリカ)。ハードルをとぶとき、ふみ切った足が体からはなれず、最短距離で前に出ます。動きが速すぎて見えません。
北口榛花選手のベストな投てきに期待
日本選手の注目は、女子やり投げの北口榛花選手。23年のハンガリー・ブダペスト大会とパリ五輪の金メダリストです。北海道出身の後輩ですが、2回も世界一になっているのに、えらそうにするようすは全然ありません。6月に右ひじをけがしたので心配ですが、ベストな投てきを見せてほしいですね。

私も今回、世界選手権出場に挑戦しました。残念ながら落選し、くやしい気持ちがないわけではありません。一生懸命やっても、夢はかなうときも、かなわないときもあります。次の目標に向かってがんばるつもりです。
今回は東京で開かれるので、テレビでも見やすい時間に放送されます。現地に足を運ぶのも良いと思いますよ。
寺田さんの注目選手
男子110メートル障害 村竹ラシッド選手

今シーズン、世界で2番目に速い12秒92で走っています。日本の選手が個人のトラック種目でメダルをとれば、2005年以来です。
女子800メートル 久保凛選手

高校3年生。800メートルを2分以内に走ります。体がぶれない大きな走りが特徴です。
寺田明日香(てらだ・あすか)

1990年生まれ、北海道出身。女子100メートル障害の元日本記録保持者。2013年に競技を一度引退した後、19年に復帰。21年の東京五輪では日本人として21年ぶりに準決勝に進出した。
世界陸上 マラソンは14日・15日 皇居・東京駅をめぐり国立競技場へ
増田明美さんに聞く見どころ
世界陸上は、持久力が求められる競技にも見どころがあります。女子マラソンでオリンピック(五輪)出場経験があるスポーツライターの増田明美さんに、注目選手や大会の楽しみ方などを聞きました。(前田奈津子)
気温が高い中ねばり強く走れるか

マラソンは女子が9月14日、男子が15日にあります。スタートとゴールは国立競技場(東京都新宿区)。東京ドームの近くを通り、秋葉原、日本橋、銀座、皇居、東京駅などをめぐります。
日本の女子代表は3人です。安藤友香選手の特徴は「抜群の安定感」と増田さん。世界陸上は2017年のイギリス・ロンドン大会にも出場しています。「これだけ長く世界で活躍しているのはすごい。経験が力になると思います」
小林香菜選手は大学時代、ランニングサークルに所属。実業団に入って、力をつけてきました。増田さんが小林選手につけたキャッチフレーズは「ピッチ、ピッチ、タフ、タフ、ラン、ラン、ラン」。速いピッチ走法(足の回転数を増やす走り方)で、体力があり、楽しそうに走っているからといいます。

佐藤早也伽選手は、ねばり強さが持ち味で、キャッチフレーズは「ねばりの白うさぎ」。キャラクターの「うさまる」がお気に入りだそうです。
男子は、24年のフランス・パリ五輪に出場した小山直城選手をふくむ3人が代表になっています。
マラソンが強いのはアフリカなどの選手。今回は、気温や湿度が高い中でのレースになることが考えられます。日本選手は厳しい条件で力を出せることがあり、ねばり強く走れるかに注目しています。
一流選手の体の動かし方を参考に
増田さんから見て、本番で力を出せる選手に共通しているのは「大舞台を楽しめること」。論語の「知好楽」の言葉を参考に説明します。知っていても好きな人にはおよばない、好きでも楽しんでいる人にはおよばないといった意味です。
本番で活躍する選手は「知」の部分にあたる練習をしっかりしています。そうすれば、自信がつきます。自信がつけば、本番が待ち遠しくなります。本番に最高のコンディションとなるよう調整する力も大切といいます。
「世界新記録が見られるかもしれないし、選手の姿からは元気をもらえると思います。走り方やフォームなど、一流選手の体の動かし方も参考にしてみましょう」と増田さん。
会場に行ける人は、応援の力を肌で感じ、一体感を味わってほしいといいます。
競歩と中長距離 注目選手
男子20キロ競歩 山西利和選手

これまで世界陸上で2回、金メダルをとっています。2月に兵庫県神戸市であった日本選手権20キロ競歩では、世界新記録で優勝しました。
中長距離 田中希実選手

前回2023年のハンガリー・ブダペスト大会の女子5000メートルの決勝で8位に入賞しました。今年8月、ベルギーで開かれたダイヤモンドリーグの女子5000メートルでは9位に(写真中央)。1500メートルでも海外の強い選手と競える力があります。
増田明美(ますだ・あけみ)

1964年生まれ。千葉県出身。1984年のアメリカ・ロサンゼルス五輪の女子マラソン代表。現在は執筆活動やマラソンの解説などをしている。朝小の「学校新聞コンクール」の審査員。
(朝日小学生新聞2025年9月12日付)

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