
心の痛み 読者の気持ち捉える
全国の書店員が一番売りたい本を選ぶ本屋大賞を、2020年に『流浪の月』(東京創元社)、23年に『汝、星のごとく』(講談社)で2度受賞した。大好きな小説を書き続けられている今は「これ以上幸せなことってない。作家になれて良かった」。
好きなことを仕事にするなんて、以前は考えたこともなかった。家庭環境に恵まれず、10代からアルバイトをして生活費を稼いだ。30代で小説を書き始めたことがきっかけで、BL(ボーイズラブ)作家としてデビュー。その後は文芸ジャンルでも活躍が続く。
「誘拐事件」の被害者とされる少女と加害者の青年。離島で出会い、家庭に向けられる世間の目や夢と葛藤しながらも恋をする男女。明るく楽しい物語とは呼びにくく、登場人物の持つ背景の多くは多数派ではないかもしれない。だが、読者からは「書いてくれてありがとう」「私のための物語だと思った」との声が届く。
登場人物の生き方を徹底的に大切にし「死ぬほど丁寧に」描く。「苦しい思いをしているときを書くのは、めちゃくちゃしんどい。でも、理由は違っても心の痛みは誰にでもある。そういうところに触れられているのかな」
物語やそこに渦巻く人々の思いは、決して単純明快なものではない。一方で、表現や描写の「読みやすさ」はとても重視する。出版不況といわれる中、『汝、星のごとく』と続編『星を編む』(講談社)の累計発行部数は単行本で65万部を超えた。「私の本が、読書を好きになる入り口になれたら」と願う。
書店などのイベントにも積極的に登壇し、新人賞の選考委員も務める。次の世代の作家たちが、安心して書ける環境を作っていきたいという。人気作家としての使命も、強く感じている。(奥苑貴世)



なぎら・ゆう

1973年生まれ。2007年にボーイズラブ作品で単行本デビュー。『流浪の月』で2020年本屋大賞、『汝、星のごとく』で2023年本屋大賞や第10回高校生直木賞を受賞。
Runway 未来へ飛び立つ君たちへ

中高生時代は未来への「滑走路」。各界の「花道」をゆく人が4週連続で登場し、エールを送ります。
(朝日中高生新聞2024年8月25日号)
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