Q 初めて能の舞台に立ったのは2歳だったそうですね。

A 私の家には能の舞台があって、祖父や祖母に教えてもらっていました。ごはんを食べたり寝たりする生活の流れのなかに、能の稽古もありました。だから、子どものころは、どこの家にも能舞台があって、みんな能を習っているんだと思っていました。

Q 大島さんの家に習いに来る人もいたのですか。

A はい、子どもから大人まで。それは今も続いています。

ひとつのものをみんなで作るよろこび

Q 能は、昔のお芝居のように見えます。どんなストーリーですか。

A 主人公になるのは、物語によって違うんですが、神様の化身や妖怪、天女、亡霊など、いろいろです。人間ではないものが多いので、変身するために能面というお面を顔につけます。

Q 能をするのが面白いと思うようになったのは、いつごろですか。

A 高校1年生で、初めて能面をつけて主役(シテ)をした時です。「羽衣」という演目でした。不安でいっぱいでしたが、私がうまくできるように、舞台に出る大人たちがみんな一生懸命、盛り立ててくれたんです。自分が主役をやってみて初めて味わえた感動がありましたし、何かひとつのものをみんなで作るって面白いなって、強く感じました。そのときから真剣に、能を続けていきたいと思うようになりました。

「殺生石」2014年 シテ 大島衣恵 写真提供・大島能楽堂

Q 能面をつけて、前は見えるのですか?

A 見える範囲がすごく狭くなります。こちらからはあまり見えないけれど、逆にたくさんのお客さんからすごく見られている。自分自身が、その圧力に負けないような力を持たないと、迫力のある演技ができません。自分に集中しながら、周りの気配や音もしっかり感じ取れる冷静さも必要です。まるで仏教の修行のようですが、そこも面白いところです。

教えて! 姿勢をよくするには

モデルさんやダンスがうまい人は、みんな姿勢がよくて、体にしっかりした軸がありますよね。能も同じで、カマエという基本になるポーズがあります。おへその裏側の腰の骨をまっすぐ立てるようにしてみてください。そうすると、背中や肩に変な力を入れなくても、すっときれいな姿勢ができます。発表や試験など、緊張しそうな時も、これをやってみると、すっと集中できますよ。

【能】

 木でできたお面をつけて、松が描かれた舞台で行われる。室町時代に世阿弥という人が活躍して、人気の芸能に。豊臣秀吉など戦国大名も能が大好きだった。亡霊や妖怪、鬼などが主人公で、不思議な世界を表現する。

【女性も能ができるの?】職業として能をする人のことを能楽師という。昔は、能の公演で舞台に出演できるのは、男性だけだったが、1948年に女性の能楽師がプロとして認められた。まだ出番は限られているが、少しずつ女性の能楽師も増えてきている。

大島衣恵(おおしま・きぬえ)

撮影・近藤理恵

 能楽師。1974年8月25日生まれ。喜多流能楽師。広島県福山市にある大島能楽堂を中心に、能の活動を行う。2歳で初舞台。東京芸術大学音楽学部邦楽科卒業。

 公演情報は大島能楽堂のHPで。 https://www.noh-oshima.com

(朝日中高生新聞2021年5月23日号)