ひじをスッと張ったきれいな構えから、田邊さんが小鼓を打ちはじめると、「ポン! ポポン!」と柔らかな音が響き渡ります。なんだか不思議なモノが現れそうな気配……。能という芸能で演奏される小鼓。どんな楽器なのでしょうか。(田村民子・伝統芸能の道具ラボ)

撮影・近藤理恵

Q 小鼓は、どのように演奏するのですか。

A 左手で小鼓を持って、右肩にのせます。そして、右の手のひらでポン! と打ちます。丸い革が表と裏にあるのですが、お祭りの太鼓みたいに革と胴がガチッと固定されてはいないんです。ひもでゆるく組んでいて、そのひもをぎゅっと握って革をピンと張らせると高い音、ゆるめると低い音という風に、音の高さを変えます。

Q 面白いしくみですね。

A 小鼓の革は湿度が好きなので、晴れより雨の日のほうが鳴りやすいんですよ。革は新しいうちはあまりいい音がしなくて、何年も使い続けていくと手の脂が革になじみ、だんだんいい音が出るようになります。

Q 能の舞台では、目立つところで演奏していますね。

A お客さんの真正面にずっといます。だから、舞台の雰囲気を壊さないように、表情や視線などにも気を配っています。能の物語は、幽霊や妖怪が主役になるものがたくさんあります。お客さんがそういう世界にすっと入っていけるように、僕たちは音で雰囲気を作っています。

撮影・近藤理恵

大学時代のサークルからプロの道へ

Q 小鼓を好きになったきっかけは?

A 大学時代に入った能のサークルです。謡(うたい)という歌のようなものや舞をみんなでやっていて、初めて小鼓に出合いました。能では笛や太鼓もありますが、小鼓の音色に一番ひかれました。

Q どうやってプロの小鼓の演奏者になったのですか。

A 大学を卒業した年に、東京にある国立能楽堂の能楽研修の募集があったのです。これだと思って応募しました。研修は6年間あって、小鼓だけでなく、他の楽器や能の実技など、さまざまなことを教えてもらいました。「能楽の小鼓という道でやっていく!」と決めてからは、いろいろと迷うということがなくなりました。

上達のコツは、あいさつから

Q 先生から教わるときの心構えで大事なことは?

A まず「お願いします!」と、おなかの底から声を出して、あいさつをすることです。そうすると、自分のやる気が、相手に伝わるんです。ただ思っているだけでなく、ちゃんと相手にわかるようにすることも大事だと思います。

【小鼓】

 2枚の馬の革と、木の胴でできた打楽器。長さは約25センチ。「チ・タ・プ・ポ」の四つ音で構成され、「ヨー」「ホー」などのかけ声をしながら演奏する。

田邊恭資(たなべ・きょうすけ)

撮影・近藤理恵

 能楽 小鼓奏者。1980年生まれ、新潟県出身。能楽小鼓の大倉流宗家・大倉源次郎(人間国宝)に師事。大学卒業後、国立能楽堂の能楽研修生となり6年間学ぶ。現在、プロとして能の舞台で演奏する。

 出演情報はHPで。 https://titapupo.blog.fc2.com

(朝日中高生新聞2021年11月14日号)