元朝日新聞編集委員が解説
27日に投開票される衆議院議員総選挙は、新首相の就任から投票までが26日間と、戦後最短となりました。これほど駆け足になった背景や選挙戦の注目ポイントについて、元朝日新聞編集委員の国分高史さんに解説してもらいました。
早期解散、党内の声に押され?
Q 新政権が発足したばかりなのに選挙?
A 石破茂首相は「新政権はできるだけ早く国民の審判を受けることが重要だ」と説明しています。内閣や自民党の役員の顔ぶれが変わったのだから、国民がそれを評価する機会となる総選挙はなるべく早くするべきだという考えは、政治のあり方としては正しいと思います。
ただし、首相になってからひと月もたたないうちに国民に投票してもらうのは、あまりに早すぎる。石破首相たちが選挙を急ぐ本当の理由は、新鮮味があるうちに選挙をした方が、自民党に有利だとほとんどの自民党議員が思っているからです。
昨年から自民党内では裏金事件などの不祥事が相次ぎ、岸田内閣や自民党の支持率は低下していました。
9月の自民党総裁選では9人もの候補者が出て、同時期に行われた立憲民主党の代表選より注目を集めました。新聞、テレビ、インターネットで多く報じられ、「お祭りさわぎ」によって、自民党に対する悪いイメージが少し弱まっているように見えます。
石破首相が実際にどんな政治をするかは、まだ分かりません。総裁選の最中には選挙は与野党で議論をしてからだと言っていましたが、総裁に当選するとすぐ態度を変えました。「少しでも早く選挙を」という自民党内の大多数の意見に従ったようです。
政治とカネ、夫婦別姓導入など
Q 今回の選挙の争点は
A 最大の争点は自民党の裏金事件に象徴される「政治とカネ」の問題です。政治に使う金の使い道を示す報告書にウソを書いたとして、自民党の派閥である安倍派や二階派の職員2人が裁判で有罪となりました。自民党と公明党の連立政権が2012年以来長く続き、気のゆるみがあったのは明らかです。
野党側は企業・団体が政党へ寄付をしたり、パーティー券を買ったりするのを禁止するなど、政治改革を訴えています。ただ自民党はそこまでするつもりは現時点でありません。その点は有権者にとって判断材料となるでしょう。
もう一つ自民党と多くの野党とで大きな違いがあるのが、選択的夫婦別姓制度の導入など、国民に多様な生き方を認めるかどうかの政策です。
自民党を支持する日本経済団体連合会(経団連)も今は選択的夫婦別姓制度に賛成していて、石破首相も総裁選中は同じ考えを示していました。ただ、自民党内では反対する議員が多く、石破首相は党内の意見をまとめ切れていません。立憲民主党など主な野党ははっきりと賛成しており、この点も判断のポイントになりそうです。
経済政策では、自民党と立憲民主党では細かい点に違いはあるものの、国民の所得を増やし、経済成長をめざす大きな方向に違いはありません。外交・安全保障政策の基本もほぼ同じです。
衆院選の仕組み
衆院選では1人の候補者名を書く「小選挙区」(定数289)、政党名を書く「比例区」(定数176)の2票を投じます。小選挙区と比例区の重複立候補が可能で、小選挙区で落選した候補が比例区で「復活当選」することがあります。自民党では、裏金事件にかかわった議員の重複立候補を認めるかどうかが問題になっています。
投票と同時に、最高裁判所裁判官の国民審査も行われます。やめさせたい裁判官に×印を記入。×の票が何も書かれていない票の数を超えたら罷免されます。

中高生へ
4分の1の支持で国政が動く…おかしくない?
みなさんは間もなく選挙権を持ち、投票できるようになります。高校3年生にはすでに選挙権を持つ人もいるでしょう。日本では2016年から選挙権年齢が20歳から18歳に引き下げられました。将来を担う若い世代の意見も政治に反映させる狙いです。
ところが、近年は若い世代に限らず、投票に行かない人が増えています。前回21年の衆院選で自民党は、小選挙区全体で約48%の票を集めて圧倒的な第1党となりました。ただ投票率は約56%だったため、有権者全体からみると自民党の得票率は約27%にすぎません。
有権者の4分の1程度の支持しか得ていない政党が、日本の進むべき方向を決めているということです。クラスで何かを決める際、4分の1の人の意見が全体の決定になってはおかしいと感じるのではないでしょうか。それと同じようなことが政治の世界で起きています。
「政治は難しい」と思ってしまうのも無理はありません。ただ、これから日本では人口が減り、経済の規模を保つのが難しくなっていきます。米国と中国との対立にみられるように、国際関係も緊張が高まっています。
そうした世界で生きなければならないみなさんは、「政治は分からない」「私には関係ない」と言ってはいられません。手にした選挙権をどう使うか。それを考えるためにも、各政党や候補者たちが何をどう訴え、選挙の後、どのように実行されていくのかに注目してほしいです。
(朝日中高生新聞2024年10月13日号)
朝日中高生新聞は週1回おうちに届きます!
デジタル版は初回申し込み1か月無料!今すぐ読めます!

朝日中高生新聞は、忙しい中学生、高校生のために主要なニュースを週1回お届け。定期テストや調べ学習にも最適です。進路などお悩み相談やここでしか読めない漫画も。学校や塾では学べない知識が身につきます。
紙面版「朝日中高生新聞」は、日曜日発行/20~24ページのボリュームでご自宅にお届けします。デジタル版「朝中高プラス」は朝日中高生新聞のデジタル版で、週1回配信。デジタル版はバックナンバーも読めます!