
鳥取環境大学ヤギ部(鳥取市)
大学の敷地内でヤギがのんびり暮らしている――。そんな話を聞き鳥取環境大学(鳥取市)を訪ねると、校舎のすぐ目の前の草地でヤギが草をはんでいました。計5頭の世話をするのは同大「ヤギ部」の学生たち。なぜ大学でヤギ? その謎と魅力に迫りました。 (朝日新聞東京本社社会部記者 植松佳香)
ヤギの個性や変化にも気づき
昨年11月末に訪れると、激しい風が吹き冷たい雨が降りしきるなか、学生4人がヤギの世話をしていました。柵で囲われた草地は東西約100メートル、南北約60メートル。冬場のエサは生えている草だけでは足りないため干し草を準備し、そこに米ぬかを混ぜたものを与えます。用意すると、あっという間にヤギたちが集まってきました。
部員は約80人。活動の中心は日々のお世話で、1日2回の掃除やエサやりをローテーションで行います。温湿度や天気、ふんの状態やヤギの様子も記録。体調管理に気を配ります。

環境学部3年の小川瑳月部長(20)は「雨でも雪でも世話をするのは大変ですが、ヤギも人と同じようにどの子も個性があってかわいい」と笑顔でヤギたちを紹介してくれました。
「こむぎ」はヤギ部歴が一番長い長老で、おっとりしています。「あずき」はマイペースで自由奔放。柵から出てキャンパス内を散歩するのが大好き。「あずき」の双子で角がある「きなこ」は、ボス的な存在で周りに目を配ります。双子の2頭はヤギ部で生まれました。
昨年4月、ここに黒ヤギの「ちゃー」と薄茶色の「げら」が仲間入り。「今日こむぎの歩き方ちょっと違う?」「きなこちょっとご機嫌斜めだね」。部員たちはそれぞれの微妙な変化にもよく気づきます。

気象条件の影響など生態観察
ヤギ部の歴史は長く、創部は大学創立と同年の2001年。現在学長を務める動物行動学の小林朋道教授が、授業で窓の外を見ながら「あの芝生にヤギがいたらおもしろいよね」と言ったことがきっかけで、ヤギを連れてくるよりも先に学生たちがヤギ部を作ったそうです。
同学部1年の栗原隆行さん(18)はヤギ部を目指して同大学に入学したと言います。「ヤギを飼えることに憧れて入りました。想像より活動は肉体労働ですが、近寄ってきてくれる姿がかわいくてたまりません」
同学部3年の上村叶実さん(23)は「あずきは私を見ると『あっ』という顔をする。家畜は人の顔を認識しないと思っていたけど、顔や声も覚えてくれているのがうれしい」と魅力を教えてくれました。
ヤギたちは地域のイベントへの参加や、近隣の除草活動でも活躍。昨秋も依頼で1週間除草にでかけ、休耕地を2頭でキレイにしました。局地気象学の准教授が、気象条件とヤギの好む環境の関係を調べ学術誌で発表するなど、研究にも生かされています。
小川部長は「ヤギを通じて環境問題を考えるのが創部以来の目的。除草は機械よりも環境に優しく草原環境も保たれます。ヤギに癒やされながら生態観察をしていろいろ学んでいきたいです」。


(朝日中高生新聞2025年1月12日号)

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