相談

自分は自分に感情があるのか時々分からなくなります。自分の感覚なのですが、自分の中に2人の自分がいて、1人は無感情の冷酷非道な自分。もう1人の自分は感受性豊かな優しい自分。2人がいると最強なんですけど、たまに2人が自分の中で喧嘩すると、イライラしてしまって、自分はどう思っているのか分からなくなる時があります。汐見さんの意見を聞かせてください。(桜月姫(さつき)さん 沖縄県 高校3年生 18歳)

汐見夏衛さんの回答

桜月姫さん、ご相談ありがとうございます。

とても難しい問題でお悩みなのですね。これまでたくさんたくさん考えてこられたのだろうなあと、文章から感じられました。

まず私としては、『悩むということは、感情があるということだ』、と考えました。
「感情がない」というのがどういう状態かは難しいですが(そもそも私は、感情がない生き物というのはいないと考えていますので)、もしも全く感情がないのなら、悩んだり、何かを感じたり、自分はどういう人間なのかを考えたりすることすらないと思うのです。

その上で、「無感情の冷酷非道な自分と、感受性豊かな優しい自分」という部分を読んで、ハッとさせられました。

ずっと自分が感じていたことを言葉にしてもらったような気がします。とても的確な表現だなと感激しました。

私にも、同じような感覚があります。何かをしているとき、何かを決めなければならないとき、頭の中で2人の自分がそれぞれの選択肢を主張している、桜月姫さんのお言葉を借りれば「2人が自分の中で喧嘩」していることがあります。

たとえば、何か必要なものを買いに行ったときに、お店に2つの商品が置いてあったとします。

Aはお得な価格、Bはお高めの価格。お財布事情を考えれば、当然Aを選んだほうがいい。

ところが、Bは自分にとって(色やデザインが好みであるとか、長持ちしそうだとか)、とても魅力的な商品である。値段を考えずに欲しさ度で判断すれば、断然Bのほうが上である。

理性的に考えればAを選ぶべき。でも正直な気持ちとしてはBがいい。

Aを奨める自分と、Bを推す自分が、やいのやいのと喧嘩をしています。

今お財布にどれくらい余裕があるか、Bは自分の暮らしにとってどれくらい必要か、お高めの代金を払ってでも手に入れたほうがいいものか。総合的に冷静に判断しなければ。

でも、暮らしを豊かにするという意味では、自分のお気に入りのものを身の回りに置いてご機嫌に過ごすというのも大事なんじゃないか。

…などなど考えて、やっぱりAにしようと決めるときもあれば、えいやっとBを選ぶときもあります。

このような日常的な場面に限りません。

人間関係だったり進路だったり、家族のことだったり仕事のことだったり、そうやって悩みながら喧嘩しながら選んできたもので、『自分の人生』ができあがっています。

その選択が正しいか間違いかよりも(そもそも正解はたいてい分からないものです)、
その都度、自分なりにきちんと悩んで決めた、ということが大事だと思うのです。

人間は、2人の自分がいてこそ、つまり二面性があってこそ、バランスのいい決断ができるのではないでしょうか。

少し突飛な仮想になりますが、たとえばあなたが、ひとりで国の命運を左右する重大な決断をしなければならない立場になったとします。

まず何よりも、感情に振り回されず冷静に状況判断をして決断を下すことが大切でしょう。

それはもちろん大切なのですが、自分の感情や他人の感情を完全に無視して合理的に正しい行動をするばかりでは、うまくいかないこともあります。

逆もしかりで、平静さを失って感情を優先した判断ばかりでは、やはり物事はうまくいかないでしょう。

何事も、どちらかの観点だけでは上手くいかない、どちらも大切なことなのです。

そういう意味で、桜月姫さんは、普段から何かを考えたり決めたりするときに、「無感情の冷酷非道な自分」=『理性的な自分』と、「感受性豊かな優しい自分」=『感情的な自分』を議論させて、バランスのいい決断をしようと奮闘しているのではないかな、と感じました。

それがもとから出来ているというのは、あなたの人生において、とてもとても優れた武器だと思います。おっしゃる通り、「2人がいると最強」なのです。

ところが、2人の主張を交わした結果、必ずしもすっとどちらかに決まるわけではなく、引き分けになることも当然あるわけですよね。

「たまに2人が自分の中で喧嘩すると、イライラしてしまって、自分はどう思っているのか分からなくなる時があります」というのは、そういう場合のことでしょう。

悩んでも悩んでもどちらが正解が分からない、結論が出ない、決断できない。そういうときはモヤモヤするし、決められないことにイライラしてしまうし、自分のことなのに決められないなんてと自分が分からなくなる。

ですが、そのような状態になるということは、常に『自分がどうするべきか冷静に考えようとしている』証なので、ご自身を誇りに思ってもいいのです。

人間、いつまで経っても、どんなに年をとっても、自分のことなど分からないし、何が正しいかも分からないし、間違いだと分かっていてもやってしまうこともあるものだと、色々なニュースなどに触れるたび、しみじみ思います。

必ずしも毎回正解を選ぶ必要はないし、そもそもそんなことは出来ないし、何より大事なのは、『ちゃんと自分でじっくり考えて自分なりの答えを出すこと』だと思います。

…だいぶ脱線して色々と語ってしまった気がしますが、ご相談への回答をまとめますと、
桜月姫さんは感情がないのではなく、理性と感情という人間にとって大事な二要素を自分の中にしっかり持っていて、普段からそれを使って物事を考えておられるということです。

その弊害としてモヤモヤしたり自分が見えなくなったりすることもあるとは思いますが、そればご自身の美点に付随する問題であるということをぜひ忘れずに、胸を張って生きてくださればいいなあと願っております。

これからも、「無感情な自分」と「感受性豊かな自分」を守りながら、たくさん考えたり迷ったり頑張ってくださいね。

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