
10代の心を繊細に描く、小説家・汐見夏衛さんによるお悩み相談のコーナーです。友達、学校、家族、将来のこと…。誰にもいえない悩みや、ちいさなモヤモヤにお答えします! 知り合いがひとりもいない、新しい環境でどうやって過ごせばいい? どうやって自分を出していけばいいのでしょうか。
相談
高校生になり、中学校とはまた違う新しい環境になりました。高校では中学校の友達がひとりもおらず、みんな高校で初めて会った子しかいないです。時間が経ち毎日お話する子はできたのですが、未だに素の自分を出せずにいます。また、素の自分を出したらみんなに引かれてしまいそうで怖いです。素を出したい自分と、出して引かれたくない自分がいます。汐見先生ならどうしますか?(まなみさん 茨城県 高校1年生)
汐見夏衛さんの回答
まなみさん、ご質問をいただいてから約一年が経ってしまいました。お返事が遅くなってしまってごめんなさい。
遅くなってしまったのですが、そうこうしているうちに年が変わり、また新しい年度が近づいて、同じような悩みに打ち当たる方も出てこられるだろう時期になりましたので、今回お答えさせていただくことにしました。
まなみさんにとっても、他の読者様にとっても、何か少しでもお力に、励みに、支えになれたらいいなと願いつつ書いております。
私も高校生になったとき、同じ中学からの生徒が三人しかおらず、同じクラスにもならなかったので、周りはまったく知らない人ばかりの中でのスタートでした。なので、心細かったお気持ち、よく分かります。
中学と高校って、少し雰囲気が違うことが多いですよね。私の進学した高校は、真面目で大人しい子ばかり(のように最初は思えたの)で、私もそういうふうに振る舞わないといけないと思い、猫をかぶっていた記憶があります。中学時代までの、小さいころから知っている友達の前とは、ずいぶん違った顔をしていたと思います。
ですが、だんだん気心が知れてきて、お互いに少しずつ本性、というか素の自分を見せるようになっていきました。
そんな中で、「ああ、この子は意外とこういうところもあるんだな」と発見して、ちょっと嬉しくなったりもしました。逆に、申し訳ないけれど「えっ、こういうこと言うんだ…ちょっと嫌だな…」と思ったことも、もちろんありました。
まなみさんは、『素を出したい自分と、出して引かれたくない自分がいる』とのことですが、その不安や怖さはとても分かります。
私自身、先述のように「ちょっと嫌だな…」と感じて、少しずつ距離を置いた人もいましたし、逆に私が距離を置かれたこともあったでしょう。
でも、それって、色々な人と関わりながら生きていく上では、よくあることなのだと思います。
最初はお互いに相手の性格も考え方もよく分からない中、どこか探るようにして距離を縮めていく。そのうち、これまで見えなかった部分が見えていて、合っているのでさらに親しくなったり、逆に合わないなと気づいて疎遠になったり。学校だけでなく、仕事や趣味の関係、家族を介した関係などにおいてもです。
そうやって、近づいたり離れたりしながら、それぞれの関係において心地よい距離感を見つけていくものなんじゃないかなと思います。
ですので、もしもまなみさんの『素』を知って引く人がいたとしたら、それはもう、「性格が合わない」の一言に尽きます。
その人との関係を保ちたいがために、ずっと素の自分を押さえ込んで付き合っていたら、きっと自分自身に限界がきてしまうでしょう。ずっと自分を押し殺すというのは大変難しいことです。
今まなみさんは、素の自分を見せないように、自分を抑えていると思います。それが少しつらくなってきている。当然のことです。いつまでも息を止めておくことはできません。
一気にすべてをさらけ出すのはなかなかハードルが高いですので、少しずつ、「小出し」にしていくといいと思います。私はいつもそうしています。
(このあたりのお話は、以前回答した中で「おうちモード」と「おそとモード」の使い分けについて書いたときに、自分なりの経験や見解を述べていますので、もしよろしければ参考にしてみてください。)
素を小出しにしていく中で、合わないなと思えば相手がそういう反応をするでしょう。それは残念だしショックなことだと思いますが、きっといつかはいずれにせよ気づき、離れていく運命だった、つまり「ご縁がなかった」というやつです。
私はわりと、どのような物事に対しても、「今回はご縁がなかった。すっぱり諦めよう!」と考えます。
たとえば誰かとの関係が壊れたり、大事にしていたものを失くしたり、欲しかったものが手に入らなかったり、やりたかった仕事がうまくいかなかったり、生きていると色々ありますが、「ああ、ご縁がなかったんだな。離れる運命だったんだな。しょうがない、しょうがない」と自分に言い聞かせます。
もちろん強がりです。本当はすごくショックだし悲しいのです。が、そういうことにして、他の物事へ目を向けるようにします。
そうしていると、また新しい人と親しくなれたり、新しく大事なものができたり、ふいに思いもよらないところから新しい物事が舞い込んできたりして、ショックは薄れていき、いつしか忘れてしまいます。
学校、教室という狭い世界では、誰かとの関係が途切れるのは、たいへんな一大事に感じられるでしょう。私もそうでした。
でも、言ってしまえば学校での友達は、ひとまず一年きり、長くても数年の関係です。みなさん何十年も生きるのですから、本当に短い時間だけの期間限定なのです。本当はたいしたことではないのです。
(こんなことを言われても、渦中にいるときは素直にそういうふうに思えないのは、自身の経験からも重々承知していますが、やはりお伝えしておきたくて。)
自分をずっと押し殺すつらさと、「ご縁がない・性格の合わない人」と距離ができるつらさを比べてみましょう。
もちろん、押し殺してでも一緒にいたいと思うような相手なら、頑張ってみるというのもその人の選択で、間違いではありません。
私は薄情な人間なので、「合わない人なんてどうでもいいや、自分が楽なのが一番!」と考えてそうしますが、情の深い方はなかなかそう割り切れないこともあるでしょう。
なにか迷っているとき、行動を起こすべきか迷うとき、判断しなければならないときは、自分なりに問題点を整理して、「どちらを選ぶのが自分にとって良いのか」をその時々の最善を尽くして選択していくしかないのだと思います。
それが、少しでも後悔を軽くしながら生きていく秘訣なのではないでしょうか。
なんだかまとまらない回答でごめんなさい。
まなみさんにとって、読んでくださった方にとって、問題解決の一助となれるよう祈っております。
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