
3歳の頃からの夢、ひのき舞台で実現へ
「1年に360食はカレー」とバラエティー番組で明かし、昨年はカレー愛をつづったエッセー集まで出版した。映画の話題作への出演も相次いでいるが、小学生の頃から「プロ」だと自覚している職業は「歌舞伎役者」。歌舞伎という「城」を出て、「武者修行させてもらっている」感覚だという。
3歳の頃、曽祖父にあたる歌舞伎俳優・六代目尾上菊五郎がつとめた舞踊「春興鏡獅子」の映像を見て、「これになりたい」と強く願った。美しい女性が獅子へと姿を変えて舞い踊る大作だ。「子どもが仮面ライダーやウルトラマンになりたいと思うのと同じ。実際にはなれないことに気づいて次の興味や目標が生まれることが多いと思いますが、僕の場合はずっと変わらなかった」
家は「清元節」という歌舞伎の伴奏音楽を代々続けていて、三味線に合わせて語る浄瑠璃方として跡を継ぐことが期待されていた。歌舞伎俳優になるための日本舞踊は、清元の稽古といっしょに始めることで許された。
まわりの大人たちは「そんなに好きなら、思い出作りに」と子役として歌舞伎の舞台に立たせてくれた。次の舞台は約束されていないから、「失敗したら後がない」という思いで毎回臨んだ。
だから、歌舞伎への思いは「ずっと片思い」。主役として演目の最初に名前が載るようになり、「ようやく時々デートしてくれるようになった」と笑う。
父の前名・清元栄寿太夫を25歳で襲名。俳優との両立は、歌舞伎の長い歴史でも例がない。自分で選んだ俳優、生まれた家の清元、どちらにも責任を感じている。「二刀流は先祖からの宿題。タイプの違う『二兎』を追い続けます」ときっぱり。
歌舞伎の殿堂、東京の歌舞伎座。1年で最も華やぐ正月の公演で、2年続けて舞踊の大曲に挑んだ。

昨年は「京鹿子娘道成寺」、今年は「二人椀久」。どちらも満開の桜の場面で舞い踊り、観客を魅了した。「体から音が鳴り、香りが漂うような踊りをする人が僕は好きだし、自分もそうありたいと思っています」
4月には「春興鏡獅子」で歌舞伎座のひのき舞台に立ち、幼い頃からの夢をかなえる。
(別府薫)
尾上右近(おのえ・うこん)

1992年5月28日生まれ、東京都出身。東京・歌舞伎座で3月は「通し狂言 仮名手本忠臣蔵」、4月は「新歌舞伎十八番の内 春興鏡獅子」に出演。
Runway 未来へ飛び立つ君たちへ

中高生時代は未来への「滑走路」。各界の「花道」をゆく人が4週連続で登場し、エールを送ります。
(朝日中高生新聞2025年2月2日号に一部加筆)

「朝中高プラス」は朝日中高生新聞のデジタル版です。忙しい中学生、高校生のために主要なニュースを週1回配信。定期テストや調べ学習にも最適!学校や塾では学べない知識が身につきます。