
食べ物や日用品などの値上げは、2023年ごろにも相次ぎ話題になりましたが、今年も再び「値上げラッシュ」が起きています。その背景を、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生さんに聞きました。
要因はコレ!
✓ 世界情勢 → 原油の価格が高騰
✓ 円安 → 輸入価格が高く
✓ 2024年問題 → 輸送費膨らむ
✓ 賃上げ → 人件費が上昇
帝国データバンクによる主要食品メーカー195社の調査によると、パンや調味料、お菓子などの家庭用食品が、2025年1~3月で1万品目以上値上げされています。今年1年間で、2万品目近くの食品が値上げされる可能性があると予測しています。
値上げラッシュは、23年ごろにもありました。1年間で値上がりした品目数は22年が約2万5千品目、23年は約3万2千品目。24年は約1万2千品目でしたが、25年に入り、再び値上げが相次いでいます。
原料・燃料費に輸送費・賃金も増加
値上げの理由はまず、原料やエネルギーの価格が高騰していることです。紛争など不安定な世界情勢が続き、原油価格が上がっています。さらに、他国の通貨に比べて円の価値が下がる円安で、原材料などの輸入価格が高くなっています。熊野さんは「エネルギー価格と輸入費用が高い状況は、23年ごろから変わっていません」といいます。
今年はそれらの原因に加え、輸送費や働く人の賃金が増えた影響があります。24年から、トラックの運転手などの働き方改革が始まりました。運転手が足りず、以前ほど早く、多く荷物を運べない「物流の2024年問題」が話題になっています。運転手を確保したり、輸送品の保管場所を増やしたりするため、輸送費用が膨らんでいます。
また、23年ごろの物価高が影響し、会社などが労働者の給料を上げる「賃上げ」が大企業を中心に始まりました。企業が労働者に払う賃金が増えると、商品の値段を上げないと経営が厳しくなる場合もあります。
指数と感じ方に差も
ものの値段の動きを示す「消費者物価指数(総合指数)」の24年の平均は、23年に比べて2.7%上昇しました。けれども、普段買い物をしていると、物価はもっと上がっていると感じるかもしれません。
日本銀行(日銀)が24年11~12月に行った「生活意識に関するアンケート調査」では、「1年前に比べ現在の物価は何%程度変化したと思うか」という質問の答えが、平均して「17.0%上昇」でした。指数と人々の感じ方には差があるようです。
熊野さんによると、食料品やガソリンなど、月に何度も購入するものの値段が上がると、購入する人は「物価が上がった」とより感じやすくなります。また、人は値段が上がると敏感に反応する一方、下がっても注目しにくいという心理的な影響もあります。
物価が上がっても、商品を買う消費者の給料も十分に上がっていれば、商品も売れ、会社の経営も良くなります。政府や日銀は、そういった良い経済の循環を生み出そうとしています。「しかし現時点では、賃上げの良い影響を実感している人が多いとはいえません。企業の大きさや業界を問わず、賃上げが広がっていくことが必要です」と熊野さんはいいます。
働く人たちが企業側に対し賃金などを交渉する「春闘」が今年も始まり、注目されています。
ガソリン価格が高騰 輸送費などにも影響
地域によっては通勤や通学に欠かすことのできない車のガソリン。資源エネルギー庁が週ごとに発表しているレギュラーガソリンの全国平均価格(小売価格)は、2月は1リットルあたり184円台で、過去最高値に近い水準でした。2024年2月は174円台、23年2月は167円台でした。製油所との距離などにより地域差があります。
政府は22年から、新型コロナウイルス感染症流行の影響からの回復を支えるため、燃料価格の負担軽減策としてガソリン補助金を実施しました。しかし、今年1月16日からは、補助金は続けるものの規模は縮小。ガソリン価格は平均5円上昇しました。家計だけでなく、商品などの輸送費にも大きく影響します。
実質賃金が3年連続↓ 今春の賃上げに注目
働いている人が実際に受け取る金額「名目賃金」から、物価の影響を差し引いて計算するのが「実質賃金」です。名目賃金が増加しても、物価の上昇値がそれを上回れば、実質賃金は低下します。

2月に厚生労働省が発表した2024年全体の実質賃金は、3年連続のマイナスとなりました。物価高に賃金の上昇が追いついていないといえます。実質賃金は24年12月でみると2カ月連続でプラスに。月ごとに見ると、上昇と低下を繰り返しています。
労働組合の中央組織・日本労働組合総連合会(連合)によると、24年の賃上げ率(最終集計)は定期昇給をふくめて5.10%で、33年ぶりに5%を超えました。
25年の春闘がどのような交渉になるか、中小企業にも賃上げが広がるかなどが、今後の経済や家計に大きく影響しそうです。
(朝日中高生新聞2025年3月2日号)
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