
古代エジプトの調査・魅力発信
古代文明の神秘に憧れ、志した大学の受験に失敗。恩師の言葉に背中を押され、進学はせずに19歳でエジプトの首都・カイロに単身で渡った。遺跡は観光客であふれ、抱いていた幻想とのギャップに驚いた。「でも、このまま戻るわけにはいかない。まだ満足していない」。ガイドとして働き、数え切れないほど遺跡に足を運んだ。
「本当に古代エジプトが好きなのか」。悩み抜いた末、現地の大学に進み古代の歴史や文字を学ぶ。それまでのガイドの体験を知識で肉づけしていくことは、楽しかった。一方で、過去をひもとくには欠かせない発掘の現場への思いが募った。卒業後は、考古学の道へ踏み出した。
ギザの都市遺構「ピラミッド・タウン」、スフィンクスなど、さまざまな遺跡の発掘調査に関わる。2016年には米国のナショナル・ジオグラフィック協会が先進的な科学者・探検家に贈る「エマージング・エクスプローラー」を受賞した。17年には世界で初めて、ドローンを用いて「ギザの3大ピラミッド」を3D計測。3DCGやAI(人工知能)を用いた調査、発掘物の研究では、複数の分野の専門家と力を合わせることが欠かせない。「チーム」を重んじる。
現在は名古屋大学で教え、エジプトにも年数回調査に訪れる。テレビ番組やYouTubeチャンネルを通して、古代エジプトの魅力の発信も欠かさない。
東京・六本木で4月6日まで開催中の展覧会「ブルックリン博物館所蔵 特別展 古代エジプト」の監修を務めた。最新のピラミッド研究についての映像や、当時の人々の死生観を伝える展示も。初期から末期まで約3千年の歴史を広く扱う展示から「古代エジプト文明の『一生』を知ってほしい」という。(奥苑貴世)
河江肖剰(かわえ・ゆきのり)
1972年、兵庫県生まれ。名古屋大学デジタル人文社会科学研究推進センター教授。92年から2008年までカイロ在住。ギザの3大ピラミッドやスフィンクスなど、さまざまな考古学調査に20年以上携わる。
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(朝日中高生新聞2025年3月2日号)

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