
10代の心を繊細に描く、小説家・汐見夏衛さんによるお悩み相談のコーナーです。友達、学校、家族、将来のこと…。誰にもいえない悩みや、ちいさなモヤモヤにお答えします! 今回は、学校の先生に恋してしまった…というお悩みです。この気持ちとどのように向き合えばいいのでしょうか?
相談
こんにちは! 汐見さんにご相談があります。それは、私の好きな人が学校の先生なのです。学校の先生だからまぁ、禁断の恋ですね…。さらに奥さんもお子さんもいらっしゃって…でも大好きで、本人にはもうバレてるかも知れないけどほんとに好きなんです。友達に話すと、「ちょっとヤバイよ」って言われてしまいます。私が勝手に思っているのですがこの恋は「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」に似ている気がして、ちょっとせつなくなります。たくさんの恋愛小説を書いていらっしゃる汐見さんは、この恋どう思いますか?
(つぐのさん 熊本県 中学2年生)
汐見夏衛さんの回答
つぐのさん、ご質問ありがとうございます。
ご回答が遅くなってしまってごめんなさい。
つぐのさんからのご質問には、大人として、社会人として、元教員として、どう答えたものか…とずいぶん頭を悩ませました。
正直なところ、大人としての体面を保ちつつ、つぐのさんの意に添うようなお答えができる自信がなくて、先送りしてしまっていた部分もあります。私が不甲斐ないばかりにお待たせしてしまってごめんなさい。
まず初めに、これだけは伝えておきたいのですが、
つぐのさんの恋は『ヤバイ』ものではありません。
あなたが本当に先生のことを好きなのは伝わってきました。それを他人から『ヤバイ』と言われる筋合いはありませんし(ただそのお友達は本当に心配してくれているのだと思います)、そう言われて自分は『ヤバイ』と思う必要もありません。
きっと素敵な先生なのでしょうね。誰かの素敵なところを見つけて、特別に好きになれるというのは、とてもすばらしいことです。
私が学生の頃も先生に恋愛感情を持っていた生徒はいましたし、以前勤務していた高校でも、先生のことが本気で好きだと言っている生徒が何人かいました。先生の結婚を知って泣いている子も見たことがあります。
みんな本気で恋をしていました。
それを承知の上で、以下の回答をします。
私は恋愛に年齢や性別は関係ないと思いますし、世の中もそうあるべきだと思っています。
ただ、どちらかが成人でどちらかが未成年の場合に限ってはそうではありません。さらに、教師と教え子という立場である場合は言語道断です。
それは、ただただ、子どもを守るためです。子どもの恋心は本物ではないだとか、いつかは冷めるだとか言いたいわけでは断じてありません。むしろ子どもや若者の場合は、大人のような打算や計算がないぶん、大人の恋より純粋でひたむきなものだと私は思います。
大人はどうしても社会的な立場や経済的な事情などを恋愛する際の考慮に入れてしまうこともあるんじゃないかと推察しますが、10代の頃はほとんどの人はそんなことなど全く考えずに、その人そのものだけを見て恋愛感情を抱くのではないかと思うからです。
ただ、だからこそ、それを悪用する人がいるのも現実です。良い顔をして言葉巧みに手玉に取り、未成年から色々なものを搾取しようと狙っている大人はたくさんいます。(念のために補足しておきますが、つぐのさんの好きな先生がそういう人だと言っているわけではもちろんありませんよ。)
でも、誰がそういう悪い大人なのかは分からない。だから(現代の日本)社会においては、そういう悪い大人の毒牙から子どもたちを守るために、一律で成年と未成年の恋愛に対しては目を光らせているわけです。
あの花では、彰は百合に好意を抱いてはいますが、生前に直接伝えることはありません。これはあの花を書いたときの私なりの線引きでした。
映画では百合が高校生の年齢に改変されていますが、これには私も大いに納得しています。14歳の中学生と21歳の大学生が…というのは、映像になるとさらに危うく映りますし、世間の理解を得られないと映画関係者の皆様は考えたのだろうと思います。
つまり、あの花の恋は物語というフィクションだからこそ許されるもので、現実においては認められないものなのです。
許されないとか認められないとか、恋愛は本人たちのことなのになんで外野からの許可や認可が必要なんだ、と言いたくもなるでしょう。
本当に、恋愛は本人たちだけの問題です。ただ、未成年だとそうはいかないのです。不服ですよね…でも今はそういう社会なのです。ご理解いただけると嬉しいです。
たとえば、昔の日本では、親によって子どもが大人と結婚させられるということがありました。今も行われている国もあります。「児童婚」と呼ばれ、問題視されています。背景には貧困問題があることが多いそうです。最近では、親に強要され9歳の時に78歳の男性と結婚させられた少女の記事を読みました。
多くの国では、このような悲劇を防ぐために、未成年者と成年者の結婚を禁止するようになったのです。それに伴い、大人と子どもの恋愛も社会からは見過ごせないものとなるわけです。
これだけは分かっていただきたいのですが、社会は未成年の恋愛を軽んじているわけではなく、自分の力では問題を解決できないかもしれない子どもたちを守りたい一心なのです。
また、これとは別の視点で、
学校や教員・職員は、生徒たちが安心して学べる場・保護者が安心して子どもを預けられる場を提供し、守る義務があります。
その中で、生徒に対して恋愛感情を抱き、どうこうしようと考える教員がいれば、生徒の安全も保護者の安心も守れません。実際、たとえば教科担当の先生だから成績を下げられるかもしれない、顧問の先生の言うことだから逆らえない、などといった理由で、つらい目に遭ってしまう生徒がこれまでたくさんいたと思います(許せない)。
中には本気でお互いに好意を持っている教師と生徒もいるかもしれません。でも、絶対に、好意を持っている以上のステージに進んではいけないのです。教師と生徒かつ成年と未成年という立場であるうちは。その後は自由ですが。
たとえどんなに生徒思いで授業が上手な良い先生でも、その一線を踏み越えてしまった時点で、問答無用に、教師としての信頼も教師を続ける資格も失うと私は思います。元教員としても、子どもを持つ親としても。
当然、そのようなことになり退職する教員のニュースも時々流れてきますね。
もしかしたらお互い合意の上だったかもしれませんが、相手のことが本当に好きなのであれば、本気で好きだからこそ、相手の立場も考えて行動しないといけません。
つぐのさんの場合は、先生が教員であることに加え、先生に奥様お子様がいらっしゃるというのも、考えるべきことですね。
長々と否定的なことばかり書いてしまってごめんなさい。お気を悪くされたり、悲しい気持ちになっていなければいいのですが…(無理ですよね)。
上記のことを踏まえた上で、『汐見さんはこの恋どう思いますか?』というご質問に答えるとすれば、
「残念だけど今はその恋を実らせることは出来ないので、先生のことはすっぱり諦めるか、諦められないなら想いを抱えたまま耐えて過ごすしかない」です。
なんの解決にもならない上に、諦めるか耐えろ、という救いのない回答でごめんなさい。
今の私には、これしか言えません。
最後に2つお伝えしたいことがあります。
まずは、つぐのさんが先生のことを好きになったのは、いけないことでもヤバイことでもなく、とても素敵なこと、ということです。
そして、叶わない恋や実らなかった恋は無駄なのかといったら、決してそうではない、ということです。
誰かを好きになるということは、その人をよく見て、良いところを見つけて、特別に思うということです。そんなふうに誰かの素敵なところを見つけられたというのがまず素敵なことなのです。
つぐのさんは先生のどんな部分が良いなと思ったのでしょう。それは自分も持っているものですか? まだ持っていないのだとしたら、先生の真似をしてみましょう。すでに持っているのなら、その良い部分をどんどん大きく育てましょう。
たとえ恋を実らせることができなかったとしても、想いが叶わなかったとしても、
誰かを好きになって、そこから何か自分の良い部分や足りない部分を見つけて、それを機に成長できたとしたら、どんどん素敵な人になれたとしたら、その恋は決して無駄なものではありません。
いつかつぐのさんが、色々な問題を気にすることなく、思いっきり好きになり想い合えるお相手と出会えることを祈っております。
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