
夢を他人に強制してしまうことを「ドリームハラスメント」(ドリハラ)と呼び、本に問題をまとめたのが高部大問さん(38)です。なぜドリハラが起こるのかや、問題提起した背景を聞きました。
社会構造の問題が背景に
「夢は持つべき」「夢は持っていないとダメ」。高部さんは、こうした考えを一方的に押しつけることをドリハラとしています。夢や、やりたいことを執拗に迫ることも該当する場合があるといいます。
高部さんは「ドリハラは嫌がらせになってしまうことや、夢を持っていない人が劣等感を抱くことにつながる」と指摘します。社会的に問題となっているさまざまなハラスメントと同じようにとらえ、「無視できない問題」と考えます。
ドリハラが生まれた原因について高部さんは「個人の問題ではなく社会の構造的な問題」と強調します。
転機は1999年、国の教育方針などを検討する重要な審議会で初めて「キャリア教育」という言葉が登場しました。当時は若者が就職難だった時代です。定職につかないフリーター志向の広がりや、就職しても仕事が合わずに続かない人が増えたことが、問題視されました。
その解決策として打ち出されたのがキャリア教育でした。小学校や中学校、高校など早い時期から職業や将来について考える教育の機会を与えることで、「問題」の解決を図ったのです。
それぞれが夢を持てば、生徒たちは自主的にキャリアを考え、雇用問題は改善する――。こうした考えがもととなり、「夢を持つことが正しい」「夢は持つべき」といった風潮が広まったと高部さんはみています。
話題にしやすく、問う側に悪意はない
違和感抱いていた中高生も
大人から夢や目標を聞かれる中高生は多いでしょう。夢は何かと話題にあがりやすいですが、高部さんは「聞く人には悪気はない」としたうえで、夢の性質に原因があるといいます。
「夢は誰もがイメージを共有している言葉で、基本的に悪意を持って使われません。どんな状況の人にも使いやすいマジックワードです。さらに、夢がかなったという事実やエピソードはいたるところで生産され続けます。私たちの頭の中にポジティブなイメージが勝手にできるわけです」
高部さんは夢の「ハラスメント」の実態をまとめた本『ドリーム・ハラスメント 「夢」で若者を追い詰める大人たち』を2020年に出版。背景には、夢に悩む10代のリアルな声がありました。
以前、大学の職員として学生のキャリア支援をしていた高部さん。人材系の会社に勤めていた経験も生かして、1万人以上の中高生にキャリアに関する講演をしてきました。
そのたびに「夢は必需品ではない」と伝えたところ、「夢を強制する社会はおかしいと思っていた」「夢は持たなくてもいいと聞いて安心した」といった声が届いたといいます。「自分自身の経験から伝えていただけなのですが、講演のアンケートには並々ならぬ本音が吐露されていました。彼らの声を代弁したいと思いました」
出版後に反響、認知広がる
社会的な議論につながればと、あえてインパクトのあるタイトルを採用。出版後はメディアで取りあげられたほか、海外でも出版されたり、大学入試や高校の模試で使われたりと大きな反響がありました。だんだんと問題が認知されるようになり、「いろいろな意見があるよねと、少しずつ社会が寛容になっているのでは」と高部さんは前向きです。
夢を見つけられないと悩む中高生に向けて「自分が素通りできない問題に目を向けると、それが夢につながるかもしれません。夢がどうしても必要なら、誰かの夢に乗っかることも方法の一つだと思います」とメッセージを送ります。
読者の声
読者から寄せられた夢へのもやもやの一部を紹介します。
●親や先生は「夢ややりたいことはないの?」ってよく聞いてくるけど夢がないとだめ? 生活に困らない程度にお金が稼げる仕事につければいいと思うのはだめ?(ここなっつ・中3)
●英語の授業のスピーチで、将来の夢を発表することがありました。当時の私は夢がなかったのですが、とりあえず適当な職業を選べと言われました。夢を語ることを強制されることが嫌で、発表形式にするところにも違和感を覚えました。(らくとあいす・中3)
●高校生になって、将来どういう勉強をしたいのか、どういう大学に入りたいのか、聞かれることが多いです。将来どういう仕事をしたいのかまだわからないし、私自身の迷いや漠然とした目標を打ち明けることに抵抗があります。だから「わからない」「まだ決まってない」と答えてしまいます。(さくらんぼ・高1)
●今の私の夢は調理師ですが、栄養士もいいな、大学で勉強するのもいいな、などと揺れています。もうすぐ高2で進路選択をしなくてはいけないのですが、一度も働いてみたことがない職業でどれが自分に合っているのかなんて「わからないよ!」と思います。(ちゃきっこりんご・高1)
高部大問(たかべ・だいもん)

1986年生まれ、兵庫県出身。大学卒業後、人材系の会社に就職。その後、大学職員を経て、今は社会福祉法人の採用担当者として働いている。

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(朝日中高生新聞2025年3月23日号)
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