5月29日に行われたハーバード大学の卒業式に向かう卒業生ら=米マサチューセッツ州 ©朝日新聞社

「行き過ぎたリベラル」 名門大を敵視か

米国のトランプ政権は5月22日、ハーバード大学に対し、留学生の受け入れに必要な認可を停止し、在籍中の留学生にも「転校か法的資格の喪失」の選択を迫った。大学側は憲法に反すると提訴。大学があるマサチューセッツ州の連邦地方裁判所は23日、一時的な差し止めを命じた。トランプ大統領は同日、記者団に「ハーバードはやり方を変えなければいけない」と話した。29日に差し止め命令の延長が決まった。

1月の政権発足からトランプ大統領は、国内の大学への圧力を強めてきた。▽採用や入試を実力主義として、人種や肌の色などに基づく優遇措置を廃止▽テロや反ユダヤ主義を支持する留学生を入学させない▽多様性・公平性・包摂性(DEI)の取り組みの廃止といった「改革」を要求。その意向に従った大学もある中、ハーバード大学は「私立大学が連邦政府に乗っ取られるようなことは許されない」とはねつけてきた。4月にはハーバード大学への数千億円規模の助成金を凍結。それでもハーバード大学は方針を変えず、さらに攻撃が激化した。

こうした攻撃は、表向きには反ユダヤ主義への対応を目的に始まった。イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの侵攻を機に、全米各地の大学で抗議活動が拡大。その際にユダヤ人学生への嫌がらせなどが起きたのに、大学が適切に対処していないと政権側は主張する。

【漫画で解説】全米の大学に広がる学生の抗議デモ

朝小プラスまなび

だが背景はこれだけにとどまらない。トランプ大統領をはじめとする保守派は、個人の自由や多様性を重んじるリベラル派と対立。中でもハーバード大学を含む名門大学が、行き過ぎたリベラル思想の温床だと敵視してきた。加えて政権内からは、名門大学が中国からの寄付や共同研究などを通じて「中国共産党と協力している」との批判も出ている。

●日本国内で留学生受け入れの動き

トランプ米大統領=5月 ©朝日新聞社

ハーバード大学の留学生は学生数の約27%にあたる約6800人。研究者を含めて出身国は140カ国を超え、文部科学省によると日本人も留学生110人、研究者150人が在籍する。トランプ大統領は5月28日、留学生の割合を「15%ほどに制限すべき」との考えを示した。

文部科学省は27日、国内の各大学に対し、学べない留学生が出る事態となった場合に学生受け入れなどの支援を検討するよう依頼した。東京大学や京都大学などが受け入れる方針を明らかにしている。

ハーバード大学出身の著名人

バラク・オバマ(第44代米大統領)
ビル・ゲイツ(マイクロソフト共同創業者)
マーク・ザッカーバーグ(メタ創業者)
ロバート・オッペンハイマー(原子爆弾開発を指揮した物理学者)
ナタリー・ポートマン(俳優)
パトリック・ハーラン(お笑い芸人)
山本五十六(旧日本軍連合艦隊司令長官)
南場智子(ディー・エヌ・エー創業者)
廣津留すみれ(バイオリニスト)

※同大の学部または大学院に在籍歴のある人物、敬称略

ハーバード大学

 1636年に現在の米マサチューセッツ州ケンブリッジに創立され、名称は初期に寄付をした牧師の名に由来。東部の名門私立大8校からなる「アイビーリーグ」の一つで、幅広い分野の教育・研究で世界をリードし、ノーベル賞の受賞者や大統領などが多数輩出。皇后雅子さまやプロサーファーの五十嵐カノア選手をはじめ、日本の在学・卒業生も多彩な分野で活躍する。学費は年間約6万ドル(約860万円)。

(朝日中高生新聞2025年6月1日号)