
10代の心を繊細に描く、小説家・汐見夏衛さんによるお悩み相談のコーナーです。友達、学校、家族、将来のこと…。誰にもいえない悩みや、ちいさなモヤモヤにお答えします! 同性の恋人がいる中学3年生からの相談です。本当のことを人に伝えるのが怖い…そんな悩みに汐見さんの回答は…?
相談
僕には同性の恋人がいます。その事を周りに言えていません。“気持ち悪い”とか“変な人”とか言われるのが怖いです。それに、付き合ってるっていうと必ず「彼氏いるの?」って聞かれるのが辛いです。どうしたらいいですか。(桜さん 東京都 中学3年生)
汐見夏衛さんの回答
桜さん、こんにちは。
いきなりですが、私の過去の苦い思い出をお話させてください。エッセイかよと思うほど長いですが、よろしければお付き合いいただけたら嬉しいです。
大学生のとき、学部が同じで、サークルも同じで、仲よくなった男の子の友達がいました。ここでは仮にAくんと呼ばせていただきます。
Aくんとは、学部どころか学科も専攻も同じで、週に何コマも同じ授業を受けており(大学ではたくさんの授業の中から自分の受けたい授業を各自で選んで好きなように決めるので、学部・学科が同じでも一度も会わないまま終わることもあるくらいです)、
しかもサークル(軽音部に入っていました)では同じバンドに属していて一緒に練習していましたし、読書という趣味も同じで感想を話し合ったりオススメ本を紹介しあったりと、いちばん仲のいい男の子でした。
(こういうふうに書くとちょっと誤解を呼んでしまいそうなので先に説明しておきますが、仲はよかったけれど恋愛感情みたいなものは全くありませんでした。他にも学部とサークルが同じ子はいて、複数でご飯を食べにいったりしていた感じです。)
私は個人的に、さわがしかったり粗暴な感じのする男性が苦手なのですが、Aくんはいつも穏やかでにこにこしていて、でも親しくなるとときどきウィットに富んだ毒舌で笑わせてくれたりと面白いところもあって、私にとっては気心の知れた楽しい友達でした。
たまに同じ専攻やサークルの同級生たち何人かで飲みにいって、就活の苦労話で盛り上がったりもしていました。
学生が集まっておしゃべりしていると、やはりたまに恋愛の話が出たりします。過去の恋愛だったり、現在進行中の恋だったり、みんないろいろ話すのですが、Aくんは恋愛系の話については、いつも聞き役に徹していました。
「Aくん彼女いないの?モテそうなのに」なんて言われたりもしていましたが、笑って受け流している様子でした。
もともとAくんは、あまり親しくない女の子とは話さないというか、距離がある感じだったので、恋愛とか女の子とか苦手なんだろうなー、と私は思っていました。
そして四年生も終わりに近づき、たしか卒論の打ち上げか、専攻の送別会のような場だったと思います。就職で離れた土地に行く人も多かったので、これでみんなで会うのは最後になるなというような機会でした。
その二次会だったか、特に仲のよかった数人でテーブルに座ってしゃべっていたときに、初めてAくんが恋愛の話をしました。しかも(どういう流れだったかは忘れてしまったのですが)、なんと「今付き合っている人の写真」とスマホを見せてくれたのです。
これまでそういう話をはぐらかしてきたAくんが突然話してくれたということで、ちょっとびっくりしながらスマホを見せてもらって、見た数人が同時に「ええ〜!」と声を上げました。男の子の写真だったからです。
今でもあのときの驚きと衝撃は忘れません。私はてっきり女の子が写っていると思い込んでいたので、びっくりしたのと同時に、「そうだったんだ!」「じゃあ、私いままですごく失礼なことを言ってしまったことがあったんじゃないか…?」と不安になったのです。
恋愛対象は異性だという思い込みがあった(もちろんそうとは限らないと本やテレビからの知識としては持っていたけれど、身近な人に同性と付き合っている人がいるかもしれないとは考えたことがなかった)ので、もしかしたら「彼女いないの?」とか、「どんな女の子がタイプなの?」とか聞いたことがあったかもしれない、お酒の席ではきっと言っていたかも、そのときAくんはどんな気持ちだったんだろう? なんて申し訳ないことをしてしまったんだろう、と後悔というか、ふがいなさというか、なんとも言えない感情がこみあげてきました。
きっとAくんは、「みんなと会うのはこれが最後だから、言ってもいいか」と考えたのだと思います。逆にいうと、最後じゃなければ言えなかったのだと思います。
その気持ちはよく分かります。もしも自分がその立場だったら私も、「みんなに話したらどう思われるかな」と不安で、言えなかっただろうと思います。
私が大学生だったのは20年くらい前のことで、当時はまだLGBTQ+という言葉はありませんでした(私が不勉強で知らなかっただけかもしれませんが、とにかく今のように誰もが知っている言葉ではありませんでした)。性別や恋愛にはいろんな形があることを、テレビに出ているタレントさんや、本やドラマに出てくる登場人物から知ってはいたものの、今ほど多様性という概念は浸透しておらず、私自身も理解できておらず、どこか遠いことのように感じていたのです。
社会も私もそういう状態だったので、Aくんが言えなかった気持ちは分かります。
Aくんから話を聞いたとき、私が最初に思ったのは、「言ってよー!」でした。もっと前から言っておいてくれたら、不用意なことを言って傷つけたりしないように気をつけたのに!と思ったのです。
でも、すぐに、『言われなくても気をつけるべきだった』と深く反省しました。考えなしに周囲から「彼女は?」なんて聞かれたら、言いにくくなって当然です。言いにくくなるような状況を、私たちが作ってしまっていたのです。
私はAくんのことを気のおけない友人と思っていましたが、彼にはそう思わせてあげられなかったのです。それも含めて後悔しました。
Aくんがあのとき打ち明けてくれたおかげで、私は先入観をやぶることができ、それ以来、『言われなくても気をつける』ことができるようになったと思います。そもそも私自身あまり恋愛の話は得意ではないので自分から振ることはないのですが、話の流れなどで相手の恋人の話が出たとしたら、「付き合っている人」や「パートナー」という言葉を使うようにしています。
大学を卒業して教師になり、生徒と話すとき、いつもAくんのことが念頭にあり、生徒に対して不用意で無遠慮な発言をすることがないように気をつけることができました。あのタイミングでAくんが話してくれたことが、本当にありがたかったと思っています。
ちなみにAくんとは卒業後も何度か連絡をとっていて、仕事で近くに来たときに数年ぶりに会えて話をしました。大学生のころのように隠さなくてよくなったからか、肩肘はらずに色んな話が聞けて楽しかったです。
私の話が長くなってしまってごめんなさい。
まず桜さんにひとつ申し上げたいのは、私がAくんの話を聞いたとき、“気持ち悪い”とか“変な人”なんて、これっぽっちも思わなかった、ということです。
それは、私が偏見のない出来た人間だからとかではなく、Aくんとは4年の付き合いで、どんな人だかよく知っていたからです。私が知っているAくんという人の色んな要素(どんな性格か、どんな本や音楽が好きか、どんなバイトをしているか、とか)に、もうひとつ要素が加わったというだけでした。それで何か関係性が変わったということもありません。
また、『付き合ってるっていうと必ず「彼氏いるの?」って聞かれるのが辛いです』というお言葉は、胸に突き刺さりました。先にお話しした過去の経験を思い出し、申し訳なさでいっぱいになりました。
桜さんが、同性の恋人がいるということを周りに言えない気持ち、その不安や恐怖は、私には想像することしかできません。なので無責任なことは言えないと思っています。
それに、世の中にはいろんな人がいて、心無いことを言う人もいるでしょう。そういう言葉が、今はインターネットなどで耳に入りやすくなり、より不安や恐怖が増してしまうという側面もあるのではないかと思います。
でも、桜さんの周りのお友達にも、私のような人間がいるかもしれないことを、ちょっとだけ覚えておいてもらえたら嬉しいのです。
恋人は異性じゃないと気持ち悪いと考えているからではなく、本当にただただ思い込みの先入観で恋人がいるなら異性だろうと思ってしまっているだけ(ごめんなさい)。その子は、もしもいつか桜さんに同性の恋人がいることをしったら、あのときの私のように、土下座して謝りたいくらいの気持ちになるかもしれません。
もし、桜さんが、誰かに恋人のことを話したい気持ちであり、でも話すのが怖くて迷っているということでしたら、(桜さんは隠すのがつらく、打ち明けたい気持ちがあるのではと拝察して、こう書いています。解釈が違っていたらすみません)
話してもいい相手は誰か、話してもいいタイミングはいつか、という視点で考えてみるのはいかがでしょうか。
Aくんのように、卒業間近なら話せるかも、という考えもあるでしょう。
あとは、これまでにしっかりと関係を築けている相手なら、信頼して話すことはできそうではないですか?
もしも話してくれたら、その相手は私のように、その後の人生においてずっと桜さんに感謝することになるかもしれません。
桜さんが打ち明けることで気持ちが楽になり、相手にとっては学びになるのだったら、どちらにとっても良いことなんじゃないかなと思います。
桜さんが、自分の大好きな人のことを、気兼ねなく家族やお友達に話せる世の中に、一刻も早くできるよう、私も社会を構成するひとりとして頑張りたいと思います。
今回の回答を書くに当たって、Aくんに了解を頂くために、久しぶりに連絡をとりました。快く了承してくれました。「全然どんどん書いちゃってくれて大丈夫、少しでもその子の助けになったら嬉しい」とのことでした。この力強い答えが、同じ悩みをもつ皆さんにとって、大きな力と励みになるのではと思います。
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