革新系の野党出身 日本への対応転換

韓国の大統領を決める選挙が3日に行われ、李在明氏(60)が得票率約49%で当選した。4日に大統領に就任。就任演説では「すべての国民を包み込み、奉仕する『みんなの大統領』になる」と述べた。韓国では尹錫悦前大統領が職務停止となった後の約半年間、大統領が不在で、政治の立て直しを急ぐことになる。

長らく軍事政権が続いた韓国では1987年に民主化した後、北朝鮮に強硬な立場の保守系と、関係改善などを掲げる進歩(革新)系という二つの勢力が政権を争ってきた。李氏は革新系の野党「共に民主党」の前代表。3年ぶりに保守系からの政権交代を果たした。

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李氏は貧しい家庭に育ち、小学校卒業後は約6年間、工場で少年工として働いたという。高卒認定試験を経て大学の法学部に進学。弁護士になり、2010年に首都ソウル近郊の城南市長に当選。知事などを歴任し、22年に党の代表に就いた。その年の大統領選に立候補。保守系の「国民の力」から立候補した尹氏に得票率でわずか0.73ポイント差で敗れた。

かつては過激な物言いで、現在の米国大統領になぞらえ「韓国のトランプ」とも呼ばれ、日本にも厳しい姿勢を示してきた。ただ、最近は「日本は重要なパートナー」などと方針転換。一方で、公職選挙法違反など五つの刑事裁判を抱え、選挙戦でもこの点について相手候補から攻撃を受け続けた。

分断進む社会に「共に生きる世を」

今回は大統領不在のまま行われた異例の選挙だった。尹前大統領が24年12月、市民の人権などを制限する「非常戒厳」を出したことから職務停止となり、弾劾裁判の結果、今年4月に罷免。任期を2年あまり残して失職した。国会で弾劾訴追を先導したのが李氏だった。

民主化以後、民主主義のもと国づくりを進めてきた韓国。その中で起きた一連の出来事を国民がどう受け止めるかが選挙の注目点だった。ただ有権者の多くはそれ以上に、経済や暮らしに関心を寄せたとみられる。投票率は79.4%と、1997年の選挙以来の高水準だった。

韓国は経済成長が鈍る中、急速な少子高齢化や若者の就職難、格差の広がりなどの課題に直面している。非常戒厳を経て、社会の分断はさらに深まったとも指摘される。李氏は当選確実となった直後、支持者らを前に「憎しみや嫌悪ではなく、認め合い、協力しながら共に生きていくような世の中を作る」と決意を示した。

■大統領選に至る主な動き

2024年
12月 尹錫悦前大統領が「非常戒厳」を宣布、国会の決議を受けて翌日に解除
   国会が尹氏を弾劾訴追して職務停止に
2025年
1月 捜査当局が尹氏を拘束。内乱を首謀した罪で起訴
2月 弾劾裁判が結審
3月 尹氏が釈放される
4月 尹氏が弾劾裁判で罷免されて失職
5月 大統領選の選挙運動開始
6月 大統領選が投開票され、李在明氏が当選

韓国の大統領

韓国の国家元首で、18歳以上の国民が直接投票で選ぶ。立候補できるのは40歳以上で、任期は5年。再選はできない。 

「国の代表」と「政府のリーダー」の両方の役割を担い、国会に対する法案の拒否権や、軍を動かす統帥権などを有する。その権力は米国の大統領などと比べても大きいと指摘される。そのぶん権力に人が群がりやすく、過去には不祥事も頻発。逮捕や有罪判決を受けた大統領経験者も多くいる。

(朝日中高生新聞2025年6月8日号)