刀剣文化を次の世代へ 研究・保全にも力
刀剣乱舞ONLINE 原作プロデューサー・小坂崇氣さん
刀剣ブームの仕掛け人は、「刀剣乱舞ONLINE」の原作プロデューサー、小坂崇氣(でじたろう)さん(59)です。ゲームの世界にとどまらない10年の歩みについて聞きました。

武器を超え日本人の精神性と結びつく
小坂さんはゲーム化をきっかけに日本刀について調べ始め、いまでは熱心なコレクターとしても知られます。刀剣のどんなところに魅力を感じたのでしょうか。
小坂さんがまずあげるのは「一つとして同じものがない美しさ」。日本刀がつくられるようになったのは、千年ほど前から。たたら製鉄という製法で砂鉄から玉鋼(たまはがね)をつくり、それを刀工が何度も折り返してたたいて刀の形にしていきます。「名刀」と呼ばれる刀には、一つひとつ「号」という愛称がつけられるのも特徴です。
「いまに残る名刀は、先人が必死に残そうとしてきたもの。単なる武器を超えて、日本人の精神性との結びつきが感じられます」と小坂さん。
また、日本では古くから、ものを大切にすると付喪神(つくもがみ)が宿ると信じられてきました。こうした背景をもとに「刀工の生き様や、さまざまな持ち主を渡り歩いてきた歴史を背負った刀剣男士が顕現する(現れる)」という世界観をつくりました。
原点は高校時代の同人誌
小坂さんは高校時代、漫画研究部に所属。アニメ『超時空要塞マクロス』の同人誌をつくったところ、マクロスの制作スタッフの目にとまり、この世界に入りました。若いころに影響を受けたマクロスや機動戦士ガンダム、ゴジラのように、長く続くものをつくりたいと願って立ち上げた企画が刀剣乱舞でした。
「高校生のころから2次創作が大好きだったので、ゲームもプレーヤーの想像力に委ねる部分を意識してつくりました」と小坂さんは説明します。ゲームの拠点となる「本丸(ほんまる)」はプレーヤーの数だけあり、それぞれちがった物語が生まれていいという考え方です。こうした自由度の高さから、メディアミックスも広がりやすかったといいます。

卒業論文のテーマにした、学芸員をめざすきっかけになった——。10年のあいだに、ファンから熱のこもった話を聞いたのは「一度や二度ではない」と小坂さん。「作品が何らかのかたちで人生に影響を与えている。こうした方からエネルギーをいただいて、スタッフのやる気につながっています」
今年3月には、刀剣文化研究保全機構という組織を設立。10周年を機に始めた定額制サービス(月額880円)の売り上げの一部を、刀剣の保全や学芸員の研究の助成などにあてます。まずは、研究1件につき200万円を上限に10件まで助成する予定。定額制サービスには、すでに6万人以上が登録しているといいます。
「文化財は、過去から未来へのリレーのように受け継いでいくもの。みんなの力で刀剣文化を応援していこうという空気感をつくっていきたい。研究が進めば刀剣男士の解像度があがり、物語の世界も広がっていくと思う」と期待します。
好きなものには、オタクであれ
小坂さんは、自らを「オタク」と認めます。アニメだけでなく少女漫画も好きだった小学生時代、『キャンディ♡キャンディ』のペンケースを学校に持っていって、いじめられたことも。でも「こんなにいいものを何でわかってくれないんだ」という反骨精神が、いまにつながる作品づくりの原動力になっているといいます。
中高生世代にも「オタクになってほしい」と話します。「ぼくのなかでオタクの定義は、自分がこれだと思ったものは徹底的にほり下げて、知らないことは何もないくらいに極めた人。どんな分野でもオタクになった方が、成功率は絶対にあがると思います」
「刀剣乱舞ONLINE」は、基本無料ですが、一部のアイテムは有料。18歳未満は、課金の際に保護者の許可が必要です。
(朝日中高生新聞2025年7月13日号)