国内18年ぶりの開催 歓声が選手後押し

国内では18年ぶりの開催となる陸上の世界選手権(世界陸上)が9月13日に開幕した。会場の東京・国立競技場は開幕から4日間の総入場者数が30万人を超える盛り上がり。自らの限界に挑む代表選手たちの背中を後押ししている。

日本勢では初日の男子35キロ競歩で、勝木隼人選手が銅メダルを獲得した。自衛隊所属で、世界大会の出場は50キロ競歩で30位に終わった2021年の東京オリンピック(五輪)以来。「とにかく見に来てほしい」とレースの3日前、SNSに競歩の魅力を10回連続で投稿していた。

女子マラソンで氷を手に走る小林香菜選手=9月14日、東京都千代田区 朝日新聞社

その後も日本選手の入賞(4~8位)が続いた。13日の女子1万メートルでは広中璃梨佳選手が世界陸上で自己最高の6位に。会場の声援を味方に、残り1周半で2人を抜き去った。翌日の女子マラソンでは小林香菜選手が7位。早稲田大学のランニングサークル出身で、東京の街は当時から練習の場。競技ランナーとなり、1人での練習のつらさを感じながらも、7月の合宿では月間で1380キロを走破した。レース後、「42キロは長くてつらいけれど、みなさんのおかげで楽しく感じられた」と話した。

15日の男子3000メートル障害では三浦龍司選手が2大会連続の入賞となる8位。ラストスパートで一気に順位を上げて「一瞬、メダルが見えた」が、最後の障害でバランスを崩した。「サンショー(3000メートル障害)のおもしろさ、難しさが最後に出たのかな」と振り返った。

16日の男子110メートル障害では、村竹ラシッド選手が13秒18で去年のパリ五輪と同じ5位となった。8月に福井市で今季世界2位の12秒92をマークし、メダルの期待を一身に背負った。レース後はテレビカメラの前で泣き崩れたが、「何年かかってもメダルを取りたい」と前を向いた。

18日の男子400メートルでは中島佑気ジョセフ選手が、この種目で日本勢34年ぶりの決勝進出で6位。予選で44秒44の日本新記録を樹立。終盤にぐいぐい前に出るレース運びに会場が沸いた。

棒高跳びで前人未到の跳躍

男子棒高跳びで世界新記録を樹立したデュプランティス選手の跳躍(写真10枚を合成)=9月15日、東京・国立競技場 朝日新聞社

世界新記録も出た。15日の男子棒高跳びを制したアルマント・デュプランティス選手(スウェーデン)だ。自身の大会3連覇を決め、最後の跳躍。大観衆が固唾をのむ中、3回目の試技で前人未到の6メートル30をクリア。21年東京五輪の王者だが、当時はコロナ禍で無観客。世界記録の更新もかなわなかった。「運命を分けたのは、今回は観客が力を送ってくれたこと。終盤に疲れが出た時に、本当に助けてくれた」

立ちはだかる厳しい残暑

東京の厳しい残暑も選手たちを苦しめた。暑さ対策で競歩とマラソンは、開始時間を当初の午前8時から午前7時半に前倒ししたが、男子35キロ競歩の川野将虎選手をはじめ、足もとがふらついたり、途中棄権したりする有力選手の姿が目立った。日本の選手はこの大会に向けて、人工的に作られた高温多湿の部屋で一定時間練習を積むなどの対策をとったという。

(朝日中高生新聞2025年9月21日号)