朝中高特派員に聞いた賛否と理由

民法の改正法案、国会提出へ

今年実現した「18歳選挙権」に続き、民法の定める成人年齢を18歳以上に引き下げる改正法案が、来年の国会に提出される見込みです。約140年続いた成人の線引きが変わるかもしれません。(今井尚、松村大行)

賛成 自立を促せる/挑戦の可能性広がる
反対 知識や経験不十分/19歳以上がいい

法案が提出されるといっても、現段階では決まっていないことだらけです。18歳成人への賛否とその理由について、朝中高特派員に聞きました。

【賛成派】
 「精神面でどう変わるか楽しみ」(佐賀県立唐津東中学2年・Sさん)
 「18歳の段階でも就職して、自分で稼いで生活している人も一定数いる」(宮城県仙台第二高校1年・Sさん)
 「若者の自立を促すことができる。ただし前段階から教育を行うなど、自立への準備は必要」(千葉市立稲毛高校2年・Nさん)
 「18歳ではなく高校を卒業した年の4月からでもいいと思う」(神奈川・栄光学園高校2年・Tさん)
 「成人なら犯罪が実名で報道されるので、犯罪が減るのでは」(沖縄・沖縄尚学高校3年・Tさん)
 「賛成だけど、大学入試センター試験と成人式がとても近くなるのでは」(東京・渋谷教育学園渋谷高校1年・Kさん)
 「未成年のときよりも見聞が広がり、幅広い分野に挑戦できるようになって、いち早く楽しめることに期待したい」(東京都青梅市立新町中学1年・Yさん)
 「若者の声が広がって、国民の声がより正確に届くようになる」(神奈川・栄光学園中学1年・Iさん)

【反対派】
 「中学卒業から3、4年しか経たない人が大人とみられても大丈夫?」(神戸市立玉津中学3年・Sさん)
 「選挙権年齢が引き下げられた時も、まだ政治のことがわかっていない人が多かった」(横浜市立岩井原中学1年・Iさん)
 「周りに喫煙者が増え、一緒に吸おうと誘われないか心配」(大阪市立墨江丘中学3年・Oさん)
 「引き下げるなら19歳以上のほうがいいのでは」(富山・片山学園中学2年・Sさん)
 「高校で大人と触れ合ったり関わったりする機会が少なく、大人ということをよく理解できていない人が多い」(神奈川・カリタス女子高校1年・Gさん)
 「日本の社会のことをあまり知らずに成人すると、危険なことがいっぱいありそう」(広島・ノートルダム清心中学2年・Sさん)

イラスト・どいまき

140年続く「成人年齢20歳」
欧米諸国は50~40年前、「18歳」に

自今満弐拾年ヲ以テ丁年ト相定候(※丁年は一人前に成長した年齢の意味)

明治維新政府の最高官庁であった太政官が1876年に出したこの法令で、日本の成人年齢は20歳と定まりました。フランスなど欧米諸国が当時、成人年齢を20歳代前半としていたのが理由の一つと言われます。この規定が96年に定められた民法に引き継がれ、今に至ります。

欧米では1960年代後半から70年代にかけて、成人年齢を18歳に下げる国が相次ぎました。成人年齢の議論に詳しい上智大学の田中治彦教授によると、学生運動など若者による社会への異議申し立てが盛んになり、政治もそれに応えたという背景があります。日本の若者も同じ状況にありましたが、若者の権利を拡大する機運は高まりませんでした。

国民投票法から

日本で議論が本格化したのは2007年の国民投票法成立がきっかけ。憲法改正を決める投票に参加できる年齢を18歳以上としました。ならば選挙で投票できる年齢や自由に契約できる年齢も18歳とするのが自然ではという意見が出ました。

その後、政府の法制審議会での検討では「選挙権年齢を引き下げるのに合わせ、民法の成人年齢も引き下げるのが望ましい」という意見でまとまりました。選挙権年齢の変更は今年の夏に実現しました。政府は来年の国会に民法の改正法案を提出する考えです。

朝中高特派員の意見に識者がコメント

19歳成人は18歳選挙権とズレ

中高生特派員から集まった意見について、田中教授にコメントをもらいました。

18歳成人なら学校教育も改革を

【成人式はどうなる?】

これは現実的な課題です。特に18歳成人が施行される年は、18~20歳の人が一斉に成人となります。成人式をするにも、多くの人が一度に集まれる場所を用意するのは難しいでしょう。

成人式が行われる時期は受験の時期でもあります。そこで19歳と20歳は今まで通り成人の日に行い、18歳は受験に影響しない別の時期に行うというのも一つの手かもしれません。

【酒・たばこは】

今回改正しようとしているのは、民法が定める成人年齢です。酒は未成年者飲酒禁止法、たばこは未成年者喫煙禁止法と、それぞれの法律で規制する年齢を定めています。現在20歳以上60歳未満の人が納めるよう定められた年金も同様です。民法改正が済んでから、それぞれの改正に取りかかる流れになります。

ただ、どれも引き下げに対して反対意見があり、議論には時間がかかると思われます。

【19歳成人ではダメ?】

多くの人が18歳で高校を卒業する日本の学校教育制度を考えると、私も悪くない案のように思います。日本と同じ教育制度をとる韓国では、2011年に成人年齢を19歳以上に引き下げました。

ただ、投票権が18歳以上に認められた今、成人年齢だけ19歳以上とするのは現実的ではなくなりました。成人となる当事者の視点で制度を考えるなら、議論に値するテーマだったと思うのですが……。

【学校生活では大人と関わる機会が少ない】

私もそう思います。18歳を成人とするなら、学校教育の内容も変えるべきでしょう。社会の仕組みを知識として頭に入れるにとどまらず、社会に出て大人と話し、身近な課題を一緒に解決する手段を探ってみてほしいですね。

高校の先生はとまどうでしょう。例えば進路を決める面談には保護者が同席しますが、成人が相手となると、その形も変わってくるかもしれません。

【成人年齢にまつわる出来事】
1876年 太政官布告により、成人年齢が20歳以上に
  96年 民法が成立
1960年代後半~70年代
      欧米で成人年齢を次々に引き下げ
  89年 子どもの権利条約が国連総会で採択。子どもは18歳未満と定義
2007年 国民投票法が成立、議論が本格化
  15年 公職選挙法が改正され、投票年齢が18歳以上に
  17年 政府が国会に民法の改正法案を提出予定
     ※法案が可決されれば3年ほどの周知期間を経て、早くて2020年から18歳以上が成人に

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(朝日中高生新聞2016年9月25日号)