この記事は、2019年9月22日号の朝日中高生新聞に掲載されました。記事の内容は、新聞に掲載したときのものです。
みなさんの学校には校則はありますか? なぜこのような決まりがあるのかわからない「ブラック校則」と呼ばれるものも、あるかもしれません。最近では、ブラック校則をなくそうとする動きも出ています。今回は校則について考えます。(近藤理恵)
黒髪強要で精神的苦痛 不登校に
健全な学校生活のため? 実態踏まえている?
そもそも校則とは一体どんなものなのでしょうか。文部科学省は「児童生徒が健全な学校生活を営み、よりよく成長・発達していくため、各学校の責任と判断の下にそれぞれ定める一定の決まり」としています。
校則について、根拠となる法令は特にありませんが、校則を制定する権限は、学校責任者の校長先生にあるとされます。
加えて文科省は、児童生徒の実態や時代の進展などを踏まえたものになるよう「積極的に見直しを行うことが大切」としています。
しかし、世間から批判されても見直されずに残っている校則もあります。その代表的な例が「地毛の黒染め強要」です。
2017年には、生まれつき茶色い髪を黒髪にするよう強要された大阪府立高校の女子生徒が、精神的苦痛を受けて不登校になったとして、府を相手取り提訴しました。これを機に、不合理な校則や学校のルールなどが、ブラック校則として注目されるようになりました。
子どもの学習支援をするNPO法人「キッズドア」理事長の渡辺由美子さんたちは「ブラック校則をなくそう!」プロジェクトを同年12月に発足。インターネット上で、校則に苦しんだ経験を子どもたちから募ったり、署名活動をしたりしてきました。今年8月、活動に賛同する約6万人の署名と、改善を求める提言書を文科省に提出しました。
プロジェクトのスーパーバイザーを務める評論家の荻上チキさんは、署名の提出後の会見で「(黒髪の強要や下着の色の指定など)人権侵害にあたるような校則を早急に把握して対応すべきだ」と話しました。

「ブラック」は人権侵害 広く議論を
髪は黒、下着は白…細かい校則増加
「ブラック校則をなくそう!」プロジェクトに寄せられたブラック校則の事例は、髪の毛の色や服装などに関するものが多いといいます。黒髪の強要のほか、女子生徒の下着の色やスカートの丈の長さの指定、まゆげの手入れの禁止などがあげられます。
プロジェクトの代表理事、須永祐慈さんは「校則がなければ学校が荒れてしまうとも言われますが、その根拠はとぼしい」。荻上チキさんは「男女それぞれ固定化された身なりを押し付けて、性的少数者への配慮がなされていない」と指摘します。
「生まれ持った髪の毛を染めさせる校則などは人権侵害」と話す渡辺由美子さん。「見た目が違うことを排除する行為は、いじめにもつながる」と心配します。
背景に先生の多忙?
調査の結果から「30年前と比べて細かい校則が増えている」と荻上さん。背景に挙げるのは、学校の先生の多忙化です。「一律に管理できる校則を使えば、生徒指導によけいな力を注ぐ必要がないと考えるのでは」と見ています。
また、「社会に出たら理不尽なことはいっぱいあるから、校則に従うべきだという先生もいる」と荻上さん。渡辺さんは「これからは自由な発想ができる人材が求められます。理不尽な校則に従わせるような教育では、本来必要な『理不尽なことを変えていく力』は身につかない」と話します。
変えるなら味方必要
もし、校則を変えたいとみなさんが思った場合、どんなことができるのでしょうか。荻上さんは「まず保護者や生徒を味方につけてほしい。校則を変える必要のある根拠を挙げて、プランを学校に提示して」とアドバイスします。
一方で、生徒会などで話し合っても、結局は先生に反対されて校則が変わらないという例も多くあるそうです。「子どもたちに『頑張れ』と言うだけでは変わらない。この問題は、広く社会で議論する必要がある」と荻上さんは訴えます。

「ブラック校則をなくそう!」プロジェクトのウェブサイト
http://black-kousoku.org/(外部リンク)
みんなが自主性持って学校へ
校則をゼロにした世田谷区立桜丘中学校
以前は「びっしり」 でも荒れていた
東京都世田谷区立桜丘中学校は、2015年に校則をすべてなくしました。制服はなく、携帯電話やタブレットの持ち込みもできます。
生徒手帳には、生徒心得として「礼儀を大切にする、出会いを大切にする、自分を大切にする」と書かれているだけです。2年の男子生徒は「自分の好きなものが着られて楽です。学校は自由で楽しい」と話します。
校長の西郷孝彦先生が9年前に着任した当時は、授業を邪魔する生徒がいたりして、学校は荒れていたそうです。校則も厳しく、生徒手帳にびっしりと書かれていました。
「靴下やセーターの色も指定されていましたが、本当に指定する必要があるのか考えました。必要のない校則を一つひとつなくしていった結果、校則がなくなりました」と西郷先生は話します。
学ぶ環境を分けず
個々人と向き合う
背景には、障がいの有無などで学ぶ場や環境を分けず、一人ひとりの能力と向き合いながらともに学ぶ「インクルーシブ教育」を目指したことがあります。
「例えば、制服の着心地が悪くて制服を着られないため、学校に来られない子もいる。そういう子が学校に来られるようにしたいと考えました」
生徒たちに自由な発想で、自主性を持って学校生活を送ってほしいという思いもあります。
「自主性を重んじると、自分たちのやりたいことに取り組んでいいと思えるようになり、エネルギーがいい方向に向くようになりました」と西郷先生。勉強が楽しくなって成績を伸ばす生徒や、自分の好きなことを追求するため留学する生徒もたくさんいるそうです。
西郷先生は、地毛を黒く染めさせるような校則は人権侵害と考えます。「『理不尽なことも我慢すべき』という感情論ではなく、『人権侵害』という意識を持たないと、不適切な指導はなくならない」と指摘します。
校風などを知った上で入学する私立の中学校と異なり、公立の中学校は選択の余地がないまま進学せざるをえないことも多くあります。
「校則は、子どもが納得しているかどうかが問題です。例えば公立の場合は『制服』ではなく、着用が望ましいとされる『標準服』。それを義務づけるのはおかしい。法的な解釈から、校則の問題を考えるべきだと思っています」

西郷孝彦先生
朝中高特派員の声
あるべきだけど生徒の考えも尊重してほしい
朝中高特派員からも、校則についてさまざまな声が上がっています。
「下着は白でないとダメ」(東京都・中2)、「日焼け止めの禁止」「前髪は眉毛が見える長さ」(ともに大阪府・中2)、「学校指定の靴下は紺色なのに、体育の授業の時、女子だけ白い靴下にかえなければならない」(岐阜県・高1)など、服装や身だしなみに関する校則やルールが多く寄せられました。
校則についての考えを問うと「自由になりすぎてしまうから、校則はあった方がいいけど、厳しすぎるのは嫌だ」(神奈川県・中2)など、ある程度は肯定する声も。
「存在理由を説明できない校則や伝統は、先生だけでなく、生徒も一緒に考え、新しく作りかえていくべきだ」(愛媛県・高1)、「社会に出たら社会の規範を守りつつ、自分で判断して行動する必要がある。校則がきつすぎると、そうした時の判断力を身につけられないのでは」(東京都・高2)といった意見もありました。
(朝日中高生新聞2019年9月22日号)

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