罪を償っても過去の犯罪歴は、グーグルなどの「検索結果」から消すことはできないのか。そんな訴えに最高裁判所が1月31日、結論を出した。ヨーロッパでは「忘れられる権利」が認められているが、日本の裁判所はどんな考えを示したのか。

償った罪の履歴をネット上の「検索結果」から消して、と裁判

ヨーロッパでは、削除を命じる判決も

以前は紙でしか読めなかった新聞記事。時間が経過すれば、切り抜きや図書館などに保存された新聞でしか、情報に接することが難しかった。だが、今はインターネットで記事を読むことができ、いろいろな形で引用されて、ネット上で広がっていく。しかも、人の名前を検索すれば、時間がたっても簡単に過去の記事を見つけることができる。

便利だが、犯罪などの過ちを犯し、インターネットで記事などがアップされれば、簡単には消すことができない、とも言える。

万引き(窃盗)などの罪を犯しても、反省して償い終えた人もいる。また、過ちといっても、犯罪行為だけではない。こうした人が「検索で犯罪歴が分かってしまうと、会社に雇ってもらえなかったり、子どもがいじめられたりする恐れがある」として、グーグルに検索結果を削除するよう求めて裁判を起こした。

こうした裁判は、犯罪歴を社会から忘れてもらうことを求めることから「忘れられる権利」の裁判とも呼ばれる。ヨーロッパでは、欧州連合(EU)司法裁判所がグーグルに削除を命じる判決を出し、新しいルールがつくられた。日本の裁判所の判断が注目されていた。

「プライバシー保護が事業者の表現の自由より重要な場合は、削除」

訴え退けるも、考え方を示した最高裁

今回、最高裁が判断を示したのは「自分の名前を検索すると5年以上前に犯した罪のことが分かるので消してほしい」と訴えた男性の裁判だ。最高裁は、検索結果自体を新聞記事などと同じ「表現」ととらえ、検索サービスには、「今の社会で重要な役割がある」とした。検索で人々が多くの情報を知ることができることが重要と考えたようだ。

©朝日新聞社

一方で、人には個人的なことを勝手に公表されない「プライバシー権」もある。最高裁は、検索結果を削除できるのは「検索サービスの役割と、プライバシーを比べてみて、プライバシーを守ることの方が、明らかに大事な場合だ」という基本的な考え方を示した。

今回の男性の場合は、犯した罪が、女子高校生にお金を払ってわいせつな行為をした児童買春で、最高裁は「社会的に強い非難の対象」と指摘。社会の関心が高いもので、検索結果は「削除できない」とした。

最高裁は今回、ヨーロッパで使われた「忘れられる権利」という言葉は使わなかった。これまでも使ってきた「プライバシー権」の考え方で結論が出せると考えたようだ。

最高裁が基本的な考え方を示したため、今後同じことが裁判になったときは、この考え方をもとに、結論を出すことになる。

【忘れられる権利】

インターネット上に掲載された自分の過去の行為(社会保険料の滞納)に関する新聞記事のリンクについて、検索サイト「グーグル」の検索結果からの削除を求めたスペイン人男性の訴えに対し、欧州連合(EU)司法裁判所は2014年5月、グーグルに削除を求められる場合があると判断を示し、その中で「忘れられる権利」にも言及した。ヨーロッパでは明確に認められている「忘れられる権利」だが、表現の自由を重視する米国は否定的という。

■解説者 千葉雄高 朝日新聞社会部記者

(朝日中高生新聞2017年2月26日号)