
この記事は、2019年4月28日号の朝日中高生新聞に掲載されました。記事の内容は、新聞に掲載したときのものです。
2028年までにAMラジオ局がAM放送をやめてFM放送に乗り換えられるよう、制度を変えてほしいと日本民間放送連盟(民放連)が3月末に総務省に要望した。23年にも一部地域でAMを試験的に停波したい考えで、コストの少ないFMに注力するねらいがある。
今は大半のラジオ局がFM放送と併用
FMに一本化できる制度、民放連求める
大半のAMラジオ局は、AMの番組をFMで同時に放送する「FM補完放送(ワイドFM)」をすでに実施している。
この先、AMをやめてFMに一本化するか、AMとFMの併用を続けるのか、AMラジオ局が選択できるよう、民放連は総務省に制度の変更を求めた。同省の有識者会合で審議し、早ければ今年の夏にも結論が出る。認められれば、大半のAM局がAMをやめてFMに乗り換えると言われている。
なぜAMをやめるのか。総務省などによると、AMの電波には遠くまで届くという特徴があるが、ビルや電子機器などの影響を受けやすく、都市部などでの難聴が問題になっている。AMの電波の送信所には東京ドーム(約4万6千平方メートル)ほどの広い敷地が必要で、海辺や河川敷にあることも多いが、水害や津波への備えが不十分だと指摘されている。このため、音質が良く、簡易な設備で放送できるFMとの併用を国が認め、2014年からワイドFMが始まった。
二重の放送費用が民放の経営を圧迫
国境越える電波や機種買い替え課題に
だが、AMとFMの放送費用を二重に負担し続けるのは重荷だと、AMラジオ局は悲鳴を上げている。民放連によると、AM局の営業収入は、ピークの1991年度には2040億円だったが、2017年度は797億円。ラジオを聴く人が減ってCM収入も減り、ただでさえ経営が厳しいためだ。入いり江え清きよ彦ひこTBSラジオ会長は、「限られた経営資源を番組制作や報道体制強化に回すことを希望する」と話す。
ただ、放送エリアが広く、電波を遠くまで飛ばす必要がある北海道などでは、AM放送がこれからも続く見込みだ。放送法でAMとFMをともに流す義務のあるNHKも、今のところやめる予定はないという。
民放がAM放送をやめても問題はないのか。AMの電波は国境を越えて届く場合があるため、周波数帯域が同じ電波を使う場合は、各国が互いに混信しないように出力を調整している。国内で使われない帯域が増えると、近隣の国から入ってくる電波を防ぎにくくなるため、これから議論になる可能性がある。
AM局が流すワイドFMは、従来のFM周波数とは異なるため、番組を聴くためには周波数90メガヘルツ超の電波を受信できる端末が必要。対応機種への買い替えがスムーズに進むのかも課題になりそうだ。

解説者 矢田萌 朝日新聞文化くらし報道部記者
(朝日中高生新聞2019年4月28日号)

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