――最新作『おしごとそうだんセンター』はどんな本?

もともとは月刊誌「小説すばる」の表紙として、世の中になさそうな新しい仕事を「めずらしいおしごと」として描きました。仕事ってなんだろう、働く意味ってなんだろう、と考えるストーリーを加えて本にしました。

――仕事や働くことをテーマに選んだ理由は?

子どものとき、親や先生に将来なりたいものを聞かれて答えられなかった。いま考えれば、大人は「その夢に向かって頑張れ」と言えば楽だから聞いただけ。でも当時は答えられない自分がダメだと感じていた。昔の僕に、大人になって分かったことを伝えたいと思いました。

――「分かったこと」とは?

夢に向かって努力することはもちろん素晴らしいですが、夢がなくたって別にいい。人間は向いていないことを5年も10年も続けられるほど、丈夫でも器用でもないんです。その瞬間に心地いい、納得できる選択をしていれば、だんだんと自分らしくなっていく。僕は40歳で絵本作家になったけれど、それまでの時間は無駄ではなかった。回り道や失敗をしても大丈夫。そんな考え方を誰かが教えてくれていたら、僕はもう少し気楽にいられただろうなと思います。

――いまの中高生に向けて伝えたいことは?

これからますます大変な世の中になっていく、と、暗い話ばかりを大人が聞かせてしまっている。戦争や分断、気候変動、出生率の低下だとか。未来をポジティブにとらえられるようなことを言えていない。

社会が不幸になることと、あなたが不幸になることは別物です。社会に合わせる必要はない。自分がうれしいもの、好きなものをコレクションして、あなた自身が幸せでいられたら、それでいい。特に昔の僕みたいに心配性な人たちに、そう伝えたいです。(聞き手・奥苑貴世)

『おしごとそうだんセンター』(集英社、2月26日出版)

ヨシタケシンスケ

撮影・粂川真木彦

1973年6月17日、神奈川県生まれ。主な作品に『りんごかもしれない』『もうぬげない』など。2月26日に『おしごとそうだんセンター』(集英社)を出版。

Runway 未来へ飛び立つ君たちへ

中高生時代は未来への「滑走路」。各界の「花道」をゆく人が4週連続で登場し、エールを送ります。

(朝日中高生新聞2024年2月18日号 )