歌舞伎の舞台で見た「忘れられない景色」

Q(質問) 日本舞踊の家元の家に生まれ、3歳で初舞台だったそうですね。

A(尾上さんの答え) 自分でも覚えていないくらい小さい頃から、踊っていました。歌舞伎が大好きで、役者のブロマイドをたくさん集めていました。お花の名前は言えないけれど、役者の名前ならぽんぽん言える、ちょっと変わった子どもでした。

Q 子どもの頃に出た舞台で、印象に残っているものは?

A 歌舞伎の舞台に、子役で出演した「春興鏡獅子」です。いつも客席は満員。舞台に立って客席を見ると、ぎっしり並んだお客さんの顔がうわーっと迫ってくるようでした。拍手もどーんと大きく鳴り響いて、そのとき見た景色や感動は今も心にくっきり残っています。お客さんと心がひとつになるのが気持ちよくて、もっと踊りたい!と思いました。

春興鏡獅子

Q 踊りを通して、心が通じ合うってすてきですね。

A 自分が踊っただけでは完成しなくて、お客さんに見てもらって初めて本当の踊りになるのだと思います。日本舞踊は風や雪、桜、山に出る月など、自然を表現することも多いのですが、踊っていると自然と一体になる感覚があります。人と人、人と自然をつなぐ力が日本舞踊にはあると思います。

誰でも、何歳からでも始められる

Q 日本舞踊は誰でも習えるのですか。

A 誰でも、何歳からでも習うことができます。そして、踊ることがうんと好きになったら、踊ることを職業にする日本舞踊家にもなれます。

「葵の上」撮影・加藤孝

Q お稽古はどんな曲から始めるのでしょうか。

A 先生によって違うと思いますが、私が教える場合は童謡の「さくらさくら」から始めます。みんなが知っている曲なので、「ちょっと踊ってみて」と言われたときにも、披露しやすいと思います。着物を着てお稽古しますので、長く続けていると、洋服を着るのと同じように、自然に着物を着ることができるようになります。

教えて! しぐさがきれいに見えるコツ

Q しぐさがきれいに見えるコツを教えてください。

A 指先に気を配ってみてください。例えばコップを持つときも、指と指が開いているのと、そろえているのでは、見た目の印象がまったく違いますよ。鏡の前でちょっと確認してみると、よくわかると思います。

【日本舞踊】

 日本で生まれた伝統的な踊りのなかで、歌舞伎舞踊の技法を基本にしたものをさす。昔から伝わる古典の演目だけでなく、新しい作品も作られている。

尾上紫(おのえ・ゆかり)

撮影・関口達朗

 日本舞踊家。1974年8月30日生まれ。尾上流名取師範。父は尾上流の三代家元・尾上墨雪。日本舞踊家として国内外の舞台に出演するほか、俳優として映画、テレビ、演劇などでも活躍する。出演情報は尾上流のHPで。https://onoe-ryu.com

(朝日中高生新聞2021年9月19日号)