立命館大学国際平和ミュージアム(京都市)
「平和」のための問いを持ち帰ってもらう――。そんなコンセプトを掲げながら、学生がスタッフとして働いている「大学立」の博物館が京都市にあります。「立命館大学国際平和ミュージアム」では、ガイドや資料整理など学生たちが活躍しています。
学生も企画やガイドに参加

4月中旬の平日のお昼時、ミュージアムの建物の一室に30人ほどの学生が集まりました。
「寄贈された資料がどのように整理されて保存されるのか、その一連の流れを知ることができる。やりがいがある重要な仕事です」。戦時期や戦後の日本文学を研究する博士後期課程3年の佐々木梓さん(26)が、学生スタッフの仕事について紹介します。
この日行われていたのは学生スタッフの募集説明会。参加者は手元の資料に目をやりながら、説明に耳を傾けていました。新たに23人が加わり、現在は42人の学生スタッフがいます。
同ミュージアムは全国でも珍しい大学立の平和博物館。1992年に太平洋戦争の反省をもとに、大学から平和を考える場所として開館しました。2023年にリニューアルし、「帝国主義」「十五年戦争」「戦後の世界」「現代の課題」と時代別に展示がなされています。戦争や公害、原発事故など現代の問題を扱ったものも多くあり、収蔵資料は約4万6千点に及びます。
学生スタッフたちは、ここで資料整理や来館者のガイド、ワークショップの企画などに携わっています。

ミュージアムで特徴的なのが、館内の様々な場所にちりばめられた「問い」です。館内のスクリーンや壁には、「平和って何だろう」「世界では、いま何が起きているのだろう」などと表示されています。19世紀のアヘン戦争からロシアのウクライナ侵攻までを記した約70メートルに及ぶ年表の横には、「今、平和かな?」と問いを投げかけています。
佐々木さんは学部1年生の時からスタッフを務めていて、今年で8年目になります。23年のリニューアルに合わせ、来館者にどのような問いを持って帰ってほしいかアイデアを出す学生スタッフのワークショップに参加しました。戦争がないだけでは平和ではない、経済格差を是正するには、差別を無くすには――。
「平和が遠い歴史の話ではなく、今を生きている人の生活に関わる問題だと来館者に感じてもらうことを心がけて『問い』を考えました」
世界の課題との関わりを自覚
問いがあることで、来館者の探究が深まっていると実感する学生スタッフもいます。
ミュージアムでガイドとして働く長崎市出身で国際関係学部3年の川端悠さん(20)は、来館者が会場の問いかけを眺める姿を見かけるそうです。自分も話しかける時は、何かを一方的に教えるのではなく、問いかけを意識しているといいます。
「見て終わりではなく、問いかけをきっかけに発見したこと、考えたことを持って帰ってもらえたら」
資料整理に携わる法学部3年の西彩妃さん(20)は「(展示を見ていると)あなたはどう考えるのかと問われるような感覚になります。様々な課題と自分との関わりを自覚してもらえると思う」。ミュージアムと関わり、「現在は個人の尊厳が守られているのか」と疑問を持つようになり、人々の暮らしを守れるような仕事に就きたいと考えているそうです。
ミュージアムの田鍬美紀学芸員(49)によると、学生スタッフは気候変動や、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃、ロシアのウクライナ侵攻など現代の問題を関連づけたワークショップを企画するなど、従来の「平和」の概念を覆してくれる存在だといいます。
「戦争体験を継承するだけの『平和』ではなく、それを踏まえてどう行動するのかを考えています。若い世代にハッとさせられることもあると思う。『問いを立て問いを持ち帰る』という重要な点を実践してくれています」

(朝日中高生新聞2025年6月8日号)

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