
10代の心を繊細に描く、小説家・汐見夏衛さんによるお悩み相談のコーナーです。友達、学校、家族、将来のこと…。誰にもいえない悩みや、ちいさなモヤモヤにお答えします! 特技ながい自分がコンプレックス…、特技ないのは悪いことですか? そんな悩みに汐見さんの回答は…?
相談
汐見先生の小説、いつも楽しませて頂いております!特に『雨上がり、君が映す空はきっと美しい』が好きです!私は好きな物や事はたくさんあるのですが、特技と言えるものが一つもありません。周りの友達は色んないい所があるのに、自分だけと思ってしまうことがよくあります。特技がないのは悪いことでしょうか。(TMさん 神奈川県 高校1年生)
汐見夏衛さんの回答
TMさん、こんにちは。
いつも読んでくださっているとのこと、とても嬉しいです!
TMさんのご相談、私はとってもとっても共感しました。
といいますのも、私自身、好きなものや好きなことは色々あるけど、どれも趣味の領域を出なくて、得意だとか特技だとか言えるようなものはひとつもない、という人生を送ってきたからです。
小さいころから中高生まで習字やピアノを習わせてもらっていましたが、腕前としては月並みで周りにはもっと上手い人がたくさんいて、ある程度できるというだけで決して自慢できるようなものじゃなかったですし、勉強は好きなほうでしたが同じく私よりもできる人はいくらでもいましたし、文系科目はよくても理系科目が壊滅的だったので、勉強が得意だなんて言いにくかったですし、小説を読むのは子どものころから好きでしたが、昔の作品や難しい内容の本は敬遠していたので、「読書が好きです」なんて胸を張って言えないと思っていましたし、映画やドラマを観るのも好きでしたが、あくまで娯楽作品を楽しむだけで、古い難しい高尚な映画は観ていなかったので、これもまた「映画が好きです」なんて言えないですし、そういえば一時期、手芸にもハマって色々作っていましたが、あくまでも自分用で人様に見せられるようなものではなく、今はさっぱり離れているので、ハマっていたことすら言えないし、……というわけで、長々とグチっぽく書いてしまいましたが、つまり私も、自分には特技がない、誇れるような特技がある人が羨ましいな、と思いながら生きてきましたよ、ということです。
ところで私は今、小説家をしています。
ですが、小説が得意か?特技か?と言われたら、そうではない気がします。
最初は趣味として小説投稿サイトで執筆活動をしていたのですが、ただただ小説を書くのが楽しくて、感想をいただけると嬉しくて、楽しい!好き!という気持ちだけで突っ走っていたら、いつの間にかここに来ていた、という感覚なのです。
得意だとか特技だとかより、やっぱり「好き!」という気持ちのパワーは、とてつもなく大きいんじゃないかなと思います。
好きのパワーって、本当にすごいんです。
私が小説家になれたのは、毎回更新を楽しみにしてくれる読者様がいたことや、時運に恵まれたことや、ご縁に恵まれたことなど、いろんな要素はあるのですが、やはり第一に「小説を書き続けていたから」だと思います。
小説投稿サイト内で多くの人に読まれることはなく片隅で細々と活動している状況だろうが、人気ランキングに全然のらなかろうが、コンテストにエントリーしても鳴かず飛ばずだろうが、そんなことはさておき、とにかく「小説を書くのが楽しい!好き!」という気持ちだけで脇目もふらずに書き続けていたからだと思うのです。
そうして続けているうちに、出版社の編集さんに見つけていただき、書籍化のお声かけをいただき、作家デビューすることができました。
逆に、いくら他人よりすごく得意なことでも、それが好きじゃなかったり、好きな気持ちが切れてしまったりしたら、続かないと思うんですよね。
続かないと、どんなに得意だろうが上手だろうが、実を結ぶことはありません。
というわけで、いちばん大事なことは、好きという気持ちを大切にして、好きなものがあることを誇らしく思って、ひたすら続けることだと思うのです。
そうしたらいつの日か、ただ好きな気持ちで続けていたことが、自分にとって誇れる特技になるかもしれません。
好きなもの、好きなことがあるというのは、とってもとってもすてきなことです。
TMさんは、拙作の中で『雨上がり~』が特にお好きと思ってくださっているとのこと。
主人公の美雨に共感してくださっているのだとしたら、あまり自分に自信がなく、コンプレックスを抱えていらっしゃるのかなと拝察します。ご相談の文面からも、なんとなくそういう印象を受けました。(違っていたらごめんなさい。)
『雨上がり~』の中で美雨が自分の好きなものに気づき、受け入れ、自信を取り戻していったのと同じように、TMさんも自分の「好き」が続くかぎり好きでいつづけ、思いきり楽しんでいれば、いつか何かを見つけられる日が来るのではないかなと思います。
あまり周りと比べすぎず、何より自分の気持ちに正直に、充実した毎日を送ってくださいね。
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