日本の空白埋めたお笑いとマンガ

NSC時代に嗅覚磨く

東京都中央区、小貫友里撮影

Q 芸人になりたいと思ったきっかけは?

中学生の頃に暮らしていたベルギーで、日本のお笑い番組のビデオを見て「ネタって面白い!」って思いました。高校の時に帰国したのですが、日本の流行がわからず、空白を埋めるかのようにいろんなマンガを読みあさり、バラエティー番組漬けの日々でした(笑)。

特に「内村プロデュース」というテレビ番組が芸人として一番かっこいいと思いました。その場のシチュエーションでどうボケるのか、緩い空気感の中で生きている芸人の姿にすごく憧れていました。

Q 芸人活動を始めたのは?

大学のお笑いサークルでコンビを組んだことが芸人活動の始まりです。高校卒業前に、NSC(吉本興業の芸人養成所)に入るか大学進学かで迷ったのですが、その時は親に芸人になりたいとは言い出せませんでした。大学在学中にお笑い大会で準優勝したり、キングオブコントに出場して勝ち進めたりと結果が出てきたので、卒業後に当時の相方とNSCに入りました。

Q マンガ漬けはいつから?

マンガとの出会いは小学生の頃に読んだ「ドラえもん」で、それからずっとマンガを読むことが好きでした。マンガ漬けになったのは大学生の頃からです。趣味に特化した仕事をしたいと思ったのと、マンガをコンビに還元できたらいいと思っていました。

NSCにいた時は、マンガ喫茶でバイトをしていて、常にマンガに触れ続ける日々でした。バイト期間が長くなるとマンガ発注担当まで任されるようになりました。翌月発売する作品をいろいろチェックして面白そうなものを見つけて……と。そこで嗅覚が磨かれて鍛えられました。

 文字の書き方、効果音や吹き出しなどの細かな表現は「マンガだからこその最小規模のエンターテインメント」と熱く語ります

東京都中央区、小貫友里撮影

自分を人間らしくしてくれた

Q ずばり「マンガ」とは?

中高生の時、人のことがわからないと思いながら毎日過ごしていました。転校などが重なって、期待をしてもムダとか諦めが大きくなり、感情の幅が狭くなっていく中でマンガをたくさん読んだことが、とてもプラスになっています。感情の振れ幅を取り戻して、自分を人間らしくしてくれたように感じています。

マンガにはいろんなシチュエーションでの人間の反応や、会話の引き出しが詰まっている。無理して頑張らなくていいと言ってくれるし、生きやすいところで生きていけるよとも教えてくれます。自分の取扱説明書は人それぞれですが、ライフハック的な作品もたくさんあるので、読めば読むほど心が豊かになっていくものだと感じています。

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衝撃を受けたマンガはこれ!

新装版『寄生獣』(全10巻)

岩明均/著、講談社、各770円

中学生の頃に読んで、マンガを好きになるのを決定づけた色あせない傑作です。序盤に出てくる「ぱふぁ」の吹き出しと花が咲いたように裂かれた顔がもう強烈です(笑)。人間に寄生し捕食する謎の生物と共生することになった高校生・泉新一と右手の寄生生物ミギーの物語。日常に潜み、隣り合う恐怖にどんどん引き込まれました。2人は日常を過ごす中で互いの異質さに気づきながらも親交を深め、生命や環境問題の本質に迫るのですが、人間が環境を汚しすぎて、天敵に対するカウンターにまでなってしまったのをどうにかしないと……と、読み終えた直後は衝撃でしばらく放心状態でした(笑)。

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『漂流教室』(全6巻)

楳図かずお/著、小学館、各990円 Ⓒ楳図かずお/小学館

小学生たちが学校ごと未来の荒廃した世界へタイムスリップし、食糧問題、怪物、けがなどさまざまな脅威に直面する極限状況を、たくましく柔軟に生き抜くSF巨編です。小学生たちの闘争心、恐怖に駆られパニックになりながらも、大人より子どもの方が柔軟に生き延びている姿に奮い立たされました。過去の常識に縛られるほど生きづらさが増す今の時代に、柔軟に生きる大切さを教えてくれます。“人生のバイブル”として何度も読み返しています。

『AKIRA』(全6巻)

大友克洋/著、講談社、1650~1870円

大友克洋以前・以後でマンガ史が語られるほどで、さまざまなジャンルで世界的に影響力があった代表作。初めて読んだときに衝撃を受けたのは、その精緻な作画と世界観です。近未来の東京が背景の細部に至るまで緻密に描き出す作画、映画のような視点・構図、超能力の表現力など魅力的な設定に頭をガツンとやられました。

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『半分姉弟』(既刊1巻)

藤見よいこ/著、リイド社、880円 『半分姉弟』Ⓒ藤見よいこ/トーチweb

最近読んで衝撃を受けた作品です。日本と外国にルーツを持つ「ハーフ」の人々に焦点を当て、日本で暮らす彼らの日常やそのときどきに直面する感情を丁寧に描いています。見過ごされがちな視点から、日本社会を捉え直せる気づきが多い素晴らしいマンガです。このスペースでは語り尽くせないので次回の連載でたっぷり書きます。お楽しみに!

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吉川きっちょむ

 吉本興業所属、ピン芸人。よしもと漫画研究部部長。東京都生まれ。5歳まで米国、小1から小5は日本、小6から中3までベルギーで過ごし高校生の時に帰国。慶応大学法学部政治学科を経て芸人になる。月に700作品ものマンガを読む。YouTube「マンガ好きっちょむチャンネル」で、いま読むべき面白いマンガを紹介している

(朝日中高生新聞2025年6月29日号)

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