「美川憲一さんのように誰かの憧れになりたいです」と語る望月琉叶さん 事務所提供

望月琉叶さん HppRecords合同会社所属

選んだ道は険しいほど楽しい

2021年に第63回日本レコード大賞で新人賞に輝き、一躍注目を集めた演歌歌手・望月琉叶(るか)さんは、期待の歌い手として活躍の舞台を広げています。

「演歌」というと、ファンの年齢層が高いイメージがあります。ですが、彼女はそこにとらわれません。かつてはアイドルグループ「民族ハッピー組」のメンバーとして、現在は小室哲哉さんがプロデュースする音楽ユニット「OVAL SISTEM」の一員として、キーボード・ラップ・ボーカル・DJも担当しています(mochilucaとして活動)。演歌をベースにしつつ、演歌の新たな可能性にも挑戦しているのです。

「幼いころから演歌が身近にありました。だから、自然と演歌になじめたんだと思います。家が美容室で、店内に演歌が流れていて。閉店後に手元にあるものをメガホンがわりにして歌っていました(笑)」

しかし、歌が好きなわけではなかったといい、「カラオケでも全然歌わない子だったんです」と振り返ります。ところが――。「小学生の時にカラオケに行った際、父が『歌わない女子はモテないぞ』と言ってきたんです(笑)。それを聞いて、確かに私、モテたことがないなと。告白もされたいし、将来は彼氏もほしい。このまま歌わなかったら彼氏ができないのか。じゃあ……って思って、積極的に歌い始めました」

美川憲一さんの歌に衝撃

さらに転機が訪れます。ユーチューブで演歌歌手・美川憲一さんの「柳ケ瀬ブルース」を聞いた時のこと。

「衝撃を受けました。さわやかで、麗しくて、美しくて、曲も素敵で。子どもながらに感動して、柳ケ瀬ブルースをしょっちゅう歌うようになったんです」

以降、演歌にどハマり。大学時代には大手生命保険会社に就職が内定しましたが、現在の事務所に「『演歌女子ルピナス組』というアイドルグループに入りませんか?」とスカウトされ、挑戦しようと決意。歌手の道を歩み始めました。

演歌のプロとしての発声練習から、プロデューサーの意図を理解してパフォーマンスに反映するといったことまで、求められることに応じていく日々は厳しくもあります。しかし、望月さんは語ります。

「むしろ面白さの方が勝っています。この道は自分で選んだものだからです。私は、やりたいことに素直になることが大切だと思っています。親族に『アイドルになる』って伝えた時も猛反対に遭いましたけど、自分の意思で『やる』と決めたら、誰のせいにもできないじゃないですか。そうやって責任を背負うと、楽しめるんです」

(ライター・正木伸城)

あゆみ

1996年、神奈川県生まれ。3歳からピアノを習い始めた

■ 小学校時代
100回書いても漢字が覚えられなかったというほど、勉強は大の苦手。4年生の時に美川憲一さんの演歌に出合う

■ 中学・高校時代
勉強は変わらず苦手。高校では軽音学部に所属し、ピアノやボーカルを担当

■ 大学時代~
東洋大学社会学部に「謎に合格」し、進学。4年生の時に現在の事務所にスカウトされ、「演歌女子ルピナス組」(のちに「民族ハッピー組」に改名)に加入

■ 2020年
シングル「失恋慕情」で演歌歌手としてソロデビュー。オリコンの週間演歌・歌謡ランキングで1位を獲得した。それ以降もヒット曲を連発。2021年に第63回日本レコード大賞新人賞を受賞

■ 2022年~
日本歌手協会2022年度最優秀新人賞を受賞。グループとして8カ国36公演を展開した後、「民族ハッピー組」から独立。現在はソロ活動を軸としつつ、音楽ユニット「OVAL SISTEM」にも参加

なりたい人へ

体質に合う練習方法を

演歌歌手になるのに王道はありませんが、歌い方が独特なので、それは知っておいた方がいいかもしれません。

ボイストレーナーからは腹式呼吸や発声法などを学びます。また、専門の「演歌の先生」もいて、一つひとつの曲や立つ舞台に合った歌の表現方法を教わります。

練習は、自分の体質に合った方法で行うのがベストです。私の場合、のどが強くないので、数をこなす練習はしていません。

思い出の仕事

演歌は国境を超える!

2023年、インドネシアで開催された「さくら祭」で 事務所提供

インドネシアで歌った時、海外のお客さまが、「かわいい」「すごい」「いいね」などと日本語で感動を言葉にしてくださったんです。感激しましたし、「演歌は国境を超えられる!」と感じました。

業界あるある

着物の色 先輩に気配り

演歌の世界には「ドサ回り」といって、スナックなどの飲食店や地方を歌いながら巡る慣習があります。

小さめのお店で、まさにお客さまの目の前で歌うことも多いです。これは、ベテランや大御所といわれる歌手でもやっています。

また、上下関係がはっきりした世界でもあります。大御所と新人で舞台上の立ち位置が決まっていたりします。

着物の色が先輩と似たものにならないように気配りする必要もあります。

(朝日中高生新聞2025年6月22日号)