多汗症かな? 悩んだら相談を
「多汗症」という言葉を知っていますか。気候や運動の有無に関わらず必要以上に汗が出てしまう疾患のことで、約10人に1人の割合でみられるとされます。病気とは気づかれにくく、当事者の朝中高特派員は「汗の病気があることを知ってほしい」と話します。(正木皓二郎)

その数10人に1人 特派員も悩んでました
周りも同じ?自覚しにくく
「人前で話すなど緊張した時に手汗がすごく出て、一度出ると止まらなくなる」。そう話すのは朝中高特派員のあやねさん(高1・静岡県)です。「学校のプリント用紙がよれてしまい、書きづらい。押さえる手とプリントの間にティッシュをはさんだり、爪で押さえたりするようにしています」
症状は季節を問いませんが、夏は汗の量が特に多いといいます。階段の手すりや電車のつり革を握る時にすべってしまうこともあるそうです。
みんな同じように汗が出ると思っていたというあやねさん。症状を自覚したのは2年ほど前のこと。手の多汗症を啓発するテレビのコマーシャルがきっかけでした。「こんな症状があるんだ。自分もそうかもと思いました」
お母さんに相談し、かかりつけのクリニックを受診したところ、特に原因のない「手掌多汗症」と診断されました。それ以来、毎晩手のひらに薬をぬって汗を抑えています。
同級生の理解に助けられ…
汗は誰もがかくため体質と誤解され、周囲からは理解を得にくいといいます。恥ずかしさから症状を隠す人も多く「サイレントハンディキャップ」(沈黙の障がい)とも呼ばれます。
あやねさんは中学生の頃、症状について同級生に打ち明けたことがありました。それは体育の時間、複数人で手をつなぐ時でした。理解されるか不安だったため、周囲に話すのをためらってきましたが「みんなに嫌な思いをさせたら申し訳ない」と思い切って伝えました。
すると同級生からは「全然気にしないよ」「大丈夫だよ」と温かな声が。「すごく理解してくれました。勇気を出して伝えて良かった」と感じました。
ただ、多汗症はまだ十分に知られていないとも感じています。「もっと簡単に言い出せるようになったら。こんな病気があるということを知ってもらうだけで、生活しやすくなる」と話します。
低い受診率 認知度高めたい
日本皮膚科学会のガイドラインによると、多汗症は全身に出るものと、手足や頭部、脇など体の一部に出るものに分類されます。特に原因のない原発性と、他の疾患とあわせて発症する続発性の多汗症があります。
診断基準は、明らかな原因がないまま過剰な発汗が6か月以上認められること。そのうえで最初に症状が出るのが25歳以下、1週間に1回以上多汗のエピソードがあることなどがあげられます。
日本皮膚科学会によると、医師らによる2020年の調査では、原発性で体の一部に出る多汗症の有病率は10%。一方で医療機関への受診経験率は4・6%でした。
多汗症の啓発活動をしているNPO法人「多汗症サポートグループ」代表理事の黒澤希さん。自身も手足に症状があり、10代の時に悩んだ経験があります。「学校で集団行動が求められる中高生は悩みやすい傾向にあります。周囲にも理解を広げていく必要があります」

保険適用の薬ができたり、製薬会社が広く啓発したりするなどし「この4、5年で認知度は高まってきた」と黒澤さん。症状に悩む10代には「1人じゃないよ」と伝えます。
「汗は恥ずかしくないし、かいてもいいんです。理解してくれる人が1人でもいたら世界が広がります。悩みすぎず、信頼できる人や皮膚科に相談してほしいです」



(朝日中高生新聞2025年7月20日号)

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