詩集『二十億光年の孤独』出版70年で絵本に
詩の「どきん」「生きる」、物語の「スイミー」(翻訳)など、国語の教科書にのっている作品でおなじみの詩人、谷川俊太郎さん。初めて出した詩集『二十億光年の孤独』の出版から、2022年で70年です。表題作の詩は21年秋、ユニークな絵がついた絵本にもなりました。谷川さんに、詩や言葉のおもしろさについて聞きました。(中塚慧)

宇宙でたった一人存在する自分
「人類は小さな球の上で/眠り起きそして働き/ときどき火星に仲間を欲しがったりする」と続く詩「二十億光年の孤独」。人類はみな、宇宙の中の一つの存在だと表しています。
「書いたのは10代の終わりごろ。どう生きていくかを考えた時に、自分の『座標(立ち位置)』を決めたいと思いました。東京がある日本があるアジアに住んでいる……と広げていくと、宇宙の中の一点にいるという発想になったんです」
谷川さんは、人間には他の人たちとの関係で自分がいる「社会内存在」と、一人の人間として宇宙の中にいるという「宇宙内存在」の二つの面があると考えています。家族や友だち、学校の先生との関係で見えてくる自分と、宇宙でたった一人存在する自分、という見方です。この詩は、人間を「宇宙内存在」としてとらえています。
詩の終わりに、「二十億光年の孤独に/僕は思わずくしゃみをした」とあります。
「ぼくは学校がきらいだった。人間社会の一員であるより先に、宇宙の生物の一つという考えになっちゃった。そのスケールの大きさに照れくささを感じて、『くしゃみ』(というおどけた表現)になったのだと今では思っています」
ラーメンの絵にびっくり
2021年11月、この詩は絵本『にじゅうおくこうねんのこどく』として出版されました。絵をかいたのは、絵本作家の塚本やすしさんです。詩には出てこないラーメンの絵が印象的に使われています。

谷川さんは「この詩のぼくのイメージは、ラーメンとは結びつかない。びっくりしたし、とてもおもしろいと思った」と笑います。「詩は自由にいろいろと感じられるもの。言葉は奥が深くて、『宇宙』と聞いて身近に感じる人も、目も耳も届かない怖さを感じる人もいる。塚本さんがラーメンを連想させたように、人間の感じ取る力の深さがあって、言葉はどんどん広がりを持つのです」
言葉の広がり自由に感じて
絵本でこの詩に初めてふれる小学生もいるでしょう。「今は昔とちがい、宇宙についてわかっていることも増えました。でも、そういう数字では表せられない宇宙の大きさ、時間が無限に流れる感覚がこの詩のベースにあります。それを子どもたちが受け取ってくれたら、今も読まれる意味があると思います」
詩を楽しみたい子どもたちには、「言葉の深さにふれて」といいます。「言葉の意味は辞書を引けばわかる。でも、けんかしたり、人を好きになったりした時に出てくる言葉はきっと、辞書では定義できない。そうした言葉の広がりを感じ取れる感性を大事にしてください」

谷川俊太郎(たにかわ・しゅんたろう)
1931年、東京生まれ。52年に詩集『二十億光年の孤独』でデビュー。詩集『日々の地図』で読売文学賞、訳詩集『マザー・グースのうた』で日本翻訳文化賞など受賞多数。
(朝日小学生新聞2022年1月28日付)

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