作品について語る谷川俊太郎さん=2022年1月20日、東京都杉並区

宇宙でたった一人存在する自分

「人類は小さな球の上で/眠り起きそして働き/ときどき火星に仲間を欲しがったりする」と続く詩「二十億光年の孤独」。人類はみな、宇宙の中の一つの存在だと表しています。

「書いたのは10代の終わりごろ。どう生きていくかを考えた時に、自分の『座標(立ち位置)』を決めたいと思いました。東京がある日本があるアジアに住んでいる……と広げていくと、宇宙の中の一点にいるという発想になったんです」

谷川さんは、人間には他の人たちとの関係で自分がいる「社会内存在」と、一人の人間として宇宙の中にいるという「宇宙内存在」の二つの面があると考えています。家族や友だち、学校の先生との関係で見えてくる自分と、宇宙でたった一人存在する自分、という見方です。この詩は、人間を「宇宙内存在」としてとらえています。

詩の終わりに、「二十億光年の孤独に/僕は思わずくしゃみをした」とあります。

「ぼくは学校がきらいだった。人間社会の一員であるより先に、宇宙の生物の一つという考えになっちゃった。そのスケールの大きさに照れくささを感じて、『くしゃみ』(というおどけた表現)になったのだと今では思っています」

ラーメンの絵にびっくり

2021年11月、この詩は絵本『にじゅうおくこうねんのこどく』として出版されました。絵をかいたのは、絵本作家の塚本やすしさんです。詩には出てこないラーメンの絵が印象的に使われています。

絵本ではラーメンの絵がかかれています=『にじゅうおくこうねんのこどく』(小学館)から

谷川さんは「この詩のぼくのイメージは、ラーメンとは結びつかない。びっくりしたし、とてもおもしろいと思った」と笑います。「詩は自由にいろいろと感じられるもの。言葉は奥が深くて、『宇宙』と聞いて身近に感じる人も、目も耳も届かない怖さを感じる人もいる。塚本さんがラーメンを連想させたように、人間の感じ取る力の深さがあって、言葉はどんどん広がりを持つのです」

言葉の広がり自由に感じて

絵本でこの詩に初めてふれる小学生もいるでしょう。「今は昔とちがい、宇宙についてわかっていることも増えました。でも、そういう数字では表せられない宇宙の大きさ、時間が無限に流れる感覚がこの詩のベースにあります。それを子どもたちが受け取ってくれたら、今も読まれる意味があると思います」

詩を楽しみたい子どもたちには、「言葉の深さにふれて」といいます。「言葉の意味は辞書を引けばわかる。でも、けんかしたり、人を好きになったりした時に出てくる言葉はきっと、辞書では定義できない。そうした言葉の広がりを感じ取れる感性を大事にしてください」

『にじゅうおくこうねんのこどく』(詩 谷川俊太郎、絵 塚本やすし、小学館、1540円)

谷川俊太郎(たにかわ・しゅんたろう)

1931年、東京生まれ。52年に詩集『二十億光年の孤独』でデビュー。詩集『日々の地図』で読売文学賞、訳詩集『マザー・グースのうた』で日本翻訳文化賞など受賞多数。

(朝日小学生新聞2022年1月28日付)