この記事は、2013年3月2日付の朝日小学生新聞に掲載されました。記事の内容は、新聞に掲載したときのものです。

仲間の国を守るため武力使う権利

最近、ニュースで「集団的自衛権」という言葉を聞いたんだけど、どういう話なの?

ジャン

小村田記者 仲間の国が攻撃されたとき、一緒に反撃することができる権利のことだね。

仲間のために戦ってはダメなの?

ケン

小村田記者 日本の自衛隊は、憲法との関係でこの権利を使えないことになっていた。でも安倍晋三内閣は、戦争をしないと定めた憲法九条をどう考えるかという「解釈」を変えて、これを認めようとしている。自衛隊のあり方が大きく変わるかもしれない。

日本の自衛隊員とアメリカ海兵隊員の共同訓練の様子=2月26日、北海道千歳市の東千歳駐屯地で©朝日新聞社

自衛権って何なの?

ケン

――国際社会の憲法ともいわれる国連憲章では、原則として武力(軍隊の力)を使うことを禁じている。だけど、自分の国が攻撃されたり、仲間の国が攻撃されたりしたときは、武力で反撃することができるんだ。

自分の国を守るときは「個別的自衛権」、仲間の国を守るときは「集団的自衛権」が認められている。

日本ではどうなの?

ポン

――個別的自衛権で自分の国を守るときは、必要最小限の武力行使ができる。だけど、仲間の国のアメリカ軍が攻撃されたときに自衛隊が反撃するのは、集団的自衛権を使うことになる。そこまでは認められない、というのが、これまでの憲法解釈なんだ。

国際法上の権利はもっているけど、憲法九条の制約があるから、集団的自衛権を使うことはできないと説明してきた。

なんで解釈を変えたいの?

ジャン

――アメリカとの同盟関係を強めたいんだろうね。沖縄県の尖閣諸島で中国との関係が緊張したり、北朝鮮も三回目の核実験にふみきったりして、日本をとりまく安全保障の環境は大きく変わっている。

安倍晋三首相は、それを理由に憲法の解釈を変えたい考えなんだ。

変えると、どうなるの?

ケン

――政府がつくった懇談会が、二つの例をあげたことがある。

ひとつは、どこの国にも属さない「公海」でいっしょに活動していたアメリカの艦船が攻撃されたときに、自衛隊が反撃すること。もうひとつは、アメリカに向かうかもしれない弾道ミサイルが飛んできたときに、自衛隊がそれを撃ち落とすこと。

安倍首相は、これからどんなケースが認められるか議論し直して、対象を広げる考えを表明したんだ。

どこまで広がるのかな。

ポン

――そこが、わからない。日米安全保障条約では、日本はアメリカ軍に基地を提供して、その代わりにアメリカ軍と自衛隊が協力して日本を守る、という話になっている。だから、日本の防衛力はおさえめにして、自衛隊が海外で武力行使はしない、という考え方をとっている。

ところが集団的自衛権を使うことを認めると、自衛隊も海外で武力行使ができるようになる。アメリカへの攻撃でも、直接攻められていない日本が応じる、という話だ。朝鮮半島で戦争が起きたときにも自衛隊の派遣が可能になるかもしれない。

なんだか大変な話だね。

ジャン

――本当に変えるかどうかは慎重に考えた方がいい。集団的自衛権を使うことを全面的に認めれば、国のあり方が根っこから変わるような話だ。それには、憲法を改めることが必要だと思うよ。

今回は解釈の変更を考えているようだけど、これまでの議論を十分にふまえた内容でないと、かえって国民に不安を与えるだろう。

小村田義之記者 (朝日新聞論説委員)

(朝日小学生新聞2013年3月2日付)