「自分事」として考え、想像

国語の入試に出る文章は大きく物語文と説明(論説)文に分けられます。どちらも入試の1年以内に出版されたものがめだちます。

物語文は、受験生と近い世代の主人公が周囲とかかわるなかで、なやみながら折り合いをつける姿がよくえがかれます。祖父母も入れて3世代それぞれの思いや立場を読ませるものもあります。いじめや虐待、格差といった社会の課題も盛りこまれています。

説明文は、世の中の話題を反映しやすい傾向があります。地球温暖化などの環境問題はもちろん、目の見えない人や動物の視点でコミュニケーションをとらえる作品もとり上げられました。

今年の新刊にはコロナ禍の日々をふり返る物語も。ニュースの出来事を「自分事」として考え、背後にいる人の気持ちを想像する――読書はそんな機会にもなります。

目次

物語文

『タイムマシンに乗れないぼくたち』
寺地はるな/文芸春秋

東京・渋谷教育学園渋谷中ほか

七つの短編集。表題作は転校先になじめない小学6年生の少年が放課後を過ごす博物館で男性と出会い、心を開いてゆく姿をえがく。

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『月曜日の抹茶カフェ』
青山美智子/宝島社文庫

埼玉・栄東中ほか

カフェにかかわる人たちの物語。短編「拍子木を鳴らして」は、祖母と孫娘がぶつかるさまが宮沢賢治の紙芝居にからめて表現される。

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『夏の体温』
瀬尾まいこ/双葉社

東京・鷗友学園女子中ほか

夏休みなのに入院中で退屈している瑛介のもとに、同い年の男子が検査入院。2泊3日ではぐくむ友情をえがく表題作など3編を収録。

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『逆ソクラテス』
伊坂幸太郎/集英社文庫

東京・吉祥女子中ほか
23年6月文庫化

小学生の少年が主人公の短編集。先入観について考えさせられる表題作は、単行本が出た21年度入試で出題多数。

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『雪のなまえ』
村山由佳/徳間書店

愛知・南山中女子部ほか

学校に行けなくなった5年生の雪乃が、曽祖父母の住む長野に移住。自分の居場所を見つけ、少しずつ心の扉を開いてゆく。

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『ソノリティ はじまりのうた』
佐藤いつ子/KADOKAWA

京都・京都女子ほか

合唱コンクールに向けてなやんだり、クラスメートとぶつかったりする日々を、中学1年生の気持ちによりそってえがく成長物語。

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説明文

『目の見えない人は世界をどう見ているのか』
伊藤亜紗/光文社新書

大阪・高槻中ほか

目が見えない人にとっての世界をわかりやすく解説。

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『人生で大事なことはみんなゴリラから教わった』
山極寿一/家の光協会

千葉・東邦大学付属東邦中ほか

ゴリラに学んだことをふり返り、生き方を伝える。

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『2050年の地球を予測する―科学でわかる環境の未来』
伊勢武史/ちくまプリマー新書

愛知・滝中ほか

地球温暖化をはじめとした環境問題について考える。

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読んでおきたい!【2022年9月以降に出版、文庫化された入試によく出る作家の本】

『ナマケモノは、なぜ怠けるのか?―生き物の個性と進化のふしぎ』
稲垣栄洋/ちくまプリマー新書

雑草の本が入試によく出る著者が、動物や昆虫もふくめた「つまらない」とされる生き物について「そのままでいいんだよ」とやさしく語る。

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『神無島のウラ』
あさのあつこ/小学館

大人に傷つけられる子どもと、子どもを守ろうとする大人たち。人間の弱さ、強さ、みにくさ、やさしさが離島を舞台にえがかれる。

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『この夏の星を見る』
辻村深月/KADOKAWA

コロナ禍で休校や部活動の制限にみまわれた中高生が、苦難と向き合いながら天体の観測を通してつながり、交流する物語。

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『バンピー』
いとうみく/静山社

小学生の妹3人を育てる高校生のもとに、「妹」が万引きをしたと電話が……。「バンピー(でこぼこ道)」な人生も悪くないと思える話。

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『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』
椰月美智子/双葉文庫

6年生の男子3人と友人になったのは85歳の田中さん。空襲で家族を失った過去を知って心を動かされ、ある計画を立てる。

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『ひこぼしをみあげて』
瀧羽麻子/偕成社

中学で天文部に入った千春が恋をして……。20年度入試などに出た『たまねぎとはちみつ』で5年生だった千春が成長して登場する。

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こちらもおすすめ(※紙面にはのせておらず、デジタル版だけで掲載)

物語文

『博士の長靴』
瀧羽麻子/ポプラ社

埼玉・西武学園文理中、東京・豊島岡女子学園中、兵庫・甲陽学院中、愛媛・愛光中ほか

天気の研究に一生をかけた藤巻博士。その一家の歴史を4世代にわたって季節ごとに異なる主人公の視点からみつめた連作短編集。

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『遠くの声に耳を澄ませて』
宮下奈都/新潮文庫

東京・早稲田中、愛知・海陽中等教育学校ほか

大人が主人公の連作短編集。著者の『羊と鋼の森』(文春文庫)なども出題多数。

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読んでおきたい!【2022年9月以降に出版、文庫化された「出るかもしれない」本】

『明日の僕に風が吹く』
乾ルカ/角川文庫

2022年9月文庫化

おじにあこがれて医師をめざしていた有人が中学2年生の「ある日」を境に不登校に。離島の高校で自分と向き合い、再起するまでの日々をえがく。単行本が出た2019年以降の入試で出題多数。

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『おくることば』
重松清/新潮文庫

2023年6月発行

感染予防のために強いられたマスク生活にあらがう6年生の日々をえがいた「反抗期」がリアルで読みやすい。大学で担当する大学の教え子への思いをつづるエッセーも収録。

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『給食アンサンブル2』
如月かずさ/光村図書

2022年10月発行

20年度入試以降によく出た『給食アンサンブル』の続編。「アーモンドフィッシュ」「クリームシチュー」といった給食のメニューの章立てで、中学2年生が部活動や恋になやみながら成長する姿をえがく。

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『きみの鐘が鳴る』
尾崎英子/ポプラ社

2022年11月発行

中学受験をめざす同じ塾の4人。5年生の3月からの日々を章ごとに主人公をかえてえがく受験小説。

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『私たちの世代は』
瀬尾まいこ/文芸春秋

2023年7月発行

小学生のときに感染症の流行によって休校やマスク登校など大きな影響を受けた「マスク世代」。2人の少女がいじめや引きこもりを経験しながら成長する姿と、就職の季節をむかえたときの姿を、それぞれの視点で交互にえがく。

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説明文

『学校はなぜ退屈でなぜ大切なのか』
広田照幸/ちくまプリマー新書

埼玉・西武学園文理中、埼玉・立教新座中、大阪・高槻中など

「教育って何だろう」「学校って何だろう」という問いかけに対して、教育学の研究者が語りかけるスタイルで答える。

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『「人それぞれ」がさみしい―「やさしく・冷たい」人間関係を考える』
石田光規/ちくまプリマー新書

千葉・芝浦工業大学柏中、東京・鷗友学園女子中、大阪・清風南海中など

「人それぞれ」という言葉はちがいを尊重する一方、相手と距離をおく側面もある。「人それぞれ」の社会や人間関係を見直す。

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読んでおきたい! 【2022年9月以降に出版、文庫化された「出るかもしれない」本】

『SDGsは地理で学べ』
宇野仙/ちくまプリマー新書

2022年10月発行

環境問題や人権、貧困、経済成長などについて図表をまじえてわかりやすく解説。

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『「心のクセ」に気づくには―社会心理学から考える』
村山綾/ちくまプリマー新書

2023年1月発行

人間が知らず知らずのうちにもっている考え方や、ついやってしまう判断や行動について社会心理学の研究結果にふれながら説明。

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選・編集部

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