NASA提供

宇宙空間に置いて、宇宙を観測する天体望遠鏡

Q なぜ、望遠鏡を宇宙に上げるの?

A 大気の影響を受けず、精密な観測ができる

解説者 瀧澤美奈子(科学ジャーナリスト)

望遠鏡を宇宙空間に上げる理由は地球の大気と関係があります。

地球をおおっている大気のベールは、光の一部を吸収してしまい、通さない性質があります。そのため、地上に望遠鏡を設置したのでは天体からくる光のすべてを観測することはできないのです。

また、夜空を見上げると、星がまたたいて見えることがあると思います。風の強い日ほど早くまたたくのですが、これは大気の動きによって星の明るさが変化するからです。このゆらぎも、天体観測にはじゃまになります。

でも、大気圏の外に望遠鏡を置けば、大気の影響を受けずに、いつも安定して天体からの光を直接とらえることができるため、精密な観測が可能なのです。

20世紀後半から多くの宇宙望遠鏡が打ち上げられてきました。

特に、目で見える光の波長(可視光)を観測する宇宙望遠鏡として脚光を浴びたのは、1990年に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡です。宇宙が加速的に膨張しているというおどろきの事実を発見したのに加え、美しい写真で多くの人の心を引きつけました。

Q ウェッブ宇宙望遠鏡のすごさは?

A ハッブルで観測するより、100倍暗い天体を見つけられる

解説者 瀧澤美奈子(科学ジャーナリスト)

さらに、現在138億歳ぐらいの宇宙が、誕生してからわずか数億年しかたっていないころの遠い天体まで観測できます。

ジェームズ・ウェッブ望遠鏡は2021年に打ち上げられました。ハッブル望遠鏡の約6倍、6・5メートルの鏡を持ちます。世界最大で、今後約10年間は、代表的な宇宙望遠鏡となる見こみです。

アメリカ航空宇宙局(NASA)を中心にヨーロッパ、カナダの宇宙局が開発しました。日本の研究者も参加し、20年以上の月日と1兆円をこえる費用をかけました。

この望遠鏡は、人間の目で見える光よりも波長の長い「赤外線」をもっとも精密に観測するようにつくられています。赤外線は熱を持つすべての物体から出ています。ウェッブ望遠鏡の感度はとびきり高く、理論的には月の距離にいるマルハナバチの体から出ている熱をとらえられるほどです。

観測はすでにすばらしい成果を出しています。

宇宙のはじまりに近い135億光年以上遠くに、一気に銀河700個を見つけ、観測史上もっとも古い銀河や超巨大ブラックホールも発見しました。最近は、星が誕生する場所として知られるオリオン星雲に、生命のもとになる重要な炭素分子を発見するなど、大きな話題が続いています。

2022年7月にジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で撮影した初めての画像。このなかに何千もの銀河がふくまれています NASA提供

光年とは?

光が1年間に進む距離のことです。光の進む速さは1秒間に約30万キロ(地球7周半)なので、1光年は約9兆5千億キロメートルになります。1光年はなれた星の光は1年かけて私たちの目に届いています。見ているのは1年前の姿ということです。宇宙でより遠くを見ることは、より過去を見ることと同じ意味です。

最近のNEWS

広い視野の望遠鏡 JAXAも開発協力

高性能なウェッブ望遠鏡ですが、天文学の大きななぞである、宇宙の加速膨張の原因とされる「ダークエネルギー」を明らかにするには、広い視野を一気に観測できる広角カメラの望遠鏡が必要です。そこでいま開発が進められているのが「ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡」です。日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)も開発に協力し、2027年5月までに打ち上げられる予定です。

ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡のイメージ NASA提供

(朝日小学生新聞2023年8月3日付)