大人でも分かりづらいニュースを、朝日新聞の記者がQ&A形式で解説します。今回の解説は、 朝日新聞経済部の橋本幸雄記者です。

外国相手に売るか、買うかで明暗
Q.ここのところ円がどんどん値下がりしているってニュースで聞くわ。
A(橋本記者).5月に入って約4年ぶりに100円台になったね。株価も上がり「円安になったから景気が良くなった」といわれているね。
Q.何で円安になると景気がよくなるの?
A.まず「円安」について説明するよ。円安とは日本のお金「円」の価値が外国のお金に対して下がったという意味なんだ。例えば、去年の11月初め、円はアメリカのお金の1ドルに対して80円の価値があった。今は同じ1ドルに対して101円の価値だ。アメリカで1ドルのものを買うには、去年は80円あればよかったけど、今は101円も必要だ。それだけ円の価値が下がったんだ。
Q.価値が下がるとよくないんじゃないの。
A.そうでもない。日本でものを作って、アメリカで売る場合、アメリカで1ドル分の売り上げがあれば、去年の11月は、日本円にすると80円の売り上げになった。それが今は、同じ1ドルの売り上げでも、日本円で101円の売り上げになる。21円も増えるんだ。
Q.円安になると売り上げが増えるのね。
A.そうなんだ。だから利益も増える。外国でものを売る会社ほど、その効果が大きい。外国で車を売っているトヨタ自動車は、1円の円安で400億円も営業利益が増える。トヨタは2012年度の決算では、車もたくさん売れて、営業利益が前の年の3・7倍の約1兆3千億円に増えた。利益が増えると、社員の給料などに回すお金も増やせる。給料が増えれば、お金を使う人が増えて、めぐりめぐって景気がよくなるというわけだ。

Q.話がうますぎる気がするなあ。
A.確かに良いことばかりではない。円安になると、アメリカで買い物をするときにたくさんの円が必要になる、と話したよね。同じことがアメリカ以外の国でも起きる。日本はいろんなものを海外で買っている。ガソリンの原料の石油や、パンの原料の小麦などがそうだ。円安になると、石油や小麦を海外で買うときに、より多くの円が必要になる。つまり、高いお金をはらわないといけなくなるんだ。
Q.それは困るよ。
A.だから、海外で買ってくる輸入品の値段が上がって、輸入品で作るものの値段は上がり始めているよ。発電所で使う燃料代が上がるから、家庭向けの電気代は上がっているし、食パンも原料の小麦が高くなっているから値上げされるよ。
Q.円安で困る人も増えそうだね。
A.牛乳をつくるために牛を飼う酪農家も、輸入が多いえさ代の値上がりで困っている。
また、イカを取る漁師の人たちは、円安で漁船の燃料代が上がって、イカを取ってももうけが出ないから、漁に出られなくなった。
ただし、ガソリンは値下がりが続いている。車に乗る人が減って、ガソリンが売れないから、お店が安売り競争をしている影響もあるようだ。

Q.円安の良い面と悪い面があるようだけど、どうすればいいの。
A.日本にとっては、多少外国から買い物がしにくくても、外国に売りやすいときの方が景気が良くなることが多い。だから円安の効果は大きい。
でも、円安でもうかった会社が給料を増やしたり、工場を建てたりしてお金をたくさん使わないと、日本全体の景気はよくならない。円安の悪い面ばかりが先にめだち始めると、みんなが景気が悪くなりそうだと思い始めてお金を使わなくなり、本当に景気が悪くなってしまう心配もある。
(朝日小学生新聞2013年5月26日付)

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