
8月15日は、57回目の終戦記念日です。日本の戦争は、みなさんにとっては、むかしのことかもしれません。でも、このつらい体験をした人が、身近にいます。朝小でおなじみのまんが「ジャンケンポン」の作者・泉昭二さんもそのひとりです。戦争のもっともはげしい時期に子ども時代をすごしました。学童疎開、東京大空襲、終戦。泉さんの目を通して当時をふり返り、平和について考えます。3回の連載です。
上空にクジラのような敵機群
泉さんは、疎開先から東京の家へもどりました。でも、ほっとしたのはほんのつかの間でした。おそろしいことが待っていたのです。東京大空襲です。
8か月ぶりわが家に帰ると「空襲警報」
防空壕へ家族と一緒に逃げこむ
疎開先の福島県を出発した汽車は、3月9日の明け方、東京都荒川区にある三河島駅につきました。
「やったー! やっと東京に帰ってきたんだ」。8か月ぶりのわが家だからね。
その夜は10時ごろ、ふとんに入ったそうです。でも、安らかなねむりは長くつづきませんでした。
空から敵が近づいてきたことを知らせる「空襲警報」のサイレンが大きな音で鳴り出したんだ。パッととび起き、服を着がえて家をとび出した。土をもりあげて穴をほった「防空壕」へ、家族といっしょににげこんだんだ。近所の人たちも入ってきた。
しばらくすると、東の空に、敵の飛行機があらわれたそうです。
地上スレスレ、低空で向かってくるんだよ。機体がとっても大きくってね。「ゴー、ゴー」という地ひびきのような音をとどろかせて、次から次へととんできた。数えきれないほどたくさんだった。
とにかくこわかった。クジラのような機体をした飛行機が、頭の上を通過していった。考える余裕なんてない。ガタガタふるえるだけだった。

地上からは、大きなライトが飛行機を照らし、たくさんの光の線が空中で交差していました。
「ヒュー、ヒュー、ヒュー」。遠くの方ではたえまなく爆弾が落とされているのが見えた。火災で次々に家が焼かれていった。空は一面、真っ赤にそまった。
2、3時間くらいたったかな。敵の飛行機が見えなくなって、攻撃が終わったんだなとわかった。
ぼくの住んでいる地域は被害が少なかった。家族も、家も無事だったんだ。でも、町のところどころに爆弾が落ち、家が焼けてしまった友だちもいた。
そのあとも空襲はつづき、5月下旬、ぼくの家も焼けてしまった。焼けのこった木材を集めて小屋をつくり、何か月もそこでくらしたんだ。
つかまった飛行機の米兵どこへ行った?
この空襲は、人々のアメリカ(米国)へのにくしみをさらに大きくさせたそうです。泉さんは、将来は飛行機や武器をつくる工場で働くように先生からいわれ、その年の4月に工業学校へ入ります。
入学してまもないある日、通学路に人だかりができていた。トラックの荷台に目かくしをされて、体をロープでしばられた若いアメリカ兵がのせられていたんだ。地上から攻撃を受けた飛行機から、パラシュートでとびおりたんだろうね。

「アメリカ人は鬼だ」。日本中の子どもたちが、そう教えられていました。泉さんも、そうでした。
でも、生まれて初めてアメリカ人を見てビックリ。肌が白くて、ハンサムな若者でしたね。
「殺してしまえ」とどなり、石をなげる人もいた。その光景を見て、アメリカ人のイメージが少しかわった。鬼なんかじゃないって。「このアメリカ兵はどこへつれていかれるのか」って少し心配になりました。
いま思いかえすと、戦争でみんなの気持ちがにくしみでいっぱいになると、ひどいことをしてしまうものだなあ。あらためて、そんなふうに思います。
【キーワード】
東京大空襲
1945年3月10日、夜がまだ明けないうちに、東京の下町上空にB29爆撃機約300機がせめてきました。爆撃によって、東京(いまの23区)の約6割が焼けました。当時のこの地域の人口は687万人ほどで、亡くなった人は約10万人といわれます。およそ100万人が家をうしなったそうです。

【年 表】
1931年9月 日本軍が満州(いまの中国・東北部)にせめ入る
1937年7月 日本と中国の戦争が始まる
1941年4月 国民学校令が出され、小学校を「国民学校」と名前をかえる
12月 ハワイの真珠湾(しんじゅわん)を攻撃、アメリカとの戦争が始まる
1942年4月 アメリカ軍による日本本土への空襲が初めて行われる(東京・名古屋・神戸)
1944年8月 東京都の学童集団疎開の第一陣が出発
9月 東京はじめ、横浜市・名古屋市・大阪市・神戸市など約40万人の子どもたちが集団疎開する
1945年3月 6年生が卒業・進学のため疎開地からもどる。1・2年生も疎開することが決まる
3月10日 東京大空襲
8月6日 広島に原爆投下
8月9日 長崎に原爆投下
8月15日 戦争が終わる
(朝日小学生新聞2002年8月7日付)

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