
泉昭二さん、連載50年
9月30日で連載50年をむかえた4コマまんが「ジャンケンポン」。作者の泉昭二さん(87歳)は、読者の健やかな成長を願い、あたたかいまなざしで子どもの世界を見つめてきました。新聞が発行される日は一日も休むことなく歩み続けた半世紀をふり返るとともに、お話が生まれる仕事場を初公開します。(編集長・別府薫、谷ゆき)

昭和
1969年(昭和44年)~ 末っ子ポンは「ぼく自身」
1969年、創刊2年目の朝小編集部から「小学1年から6年まで楽しめるまんがを」とお願いがあり、年齢のちがう3きょうだいのアイデアが生まれました。連載の最初の約束は「1か月くらい」だったそうです。
お姉さんのジャンは、弟のケンやポンのめんどうもみるしっかり者です。「これは初めて話すんじゃないかな」と泉さん。「ジャンには、ぼくを育ててくれた19歳年上の姉がどうしても出てしまいます」
32年生まれの泉さんは、8人きょうだいの末っ子。3歳のときに病気でお母さんを亡くし、お姉さんが身の回りの世話から勉強までみてくれました。「だからポンは、ぼく自身。ジャンとポンの話が多いのはそのせいなんです」


1979年(昭和54年)~ 「今」の子どもの気持ちで
「連載を始めたころは、家の前の道でも、近くの公園でも遊んでいる子がいっぱいいましたよ」。子どもがいない泉さんにとって、そうした子どもたちも作品のモデルになりました。「自分の子ども時代を思い出すのではなく、今の子どもの気持ちにならないと良いものはかけない」といつも心がけています。
子どもの遊びが大きく変わった80年代。大ブームになったテレビゲーム「ファミリーコンピュータ」は、86年2月14日付に出てきます。ファミコンに夢中のケンに、ママがいたずらを。「子どもたちには、外でどろんこになって遊んでほしいなあ」。そんな泉さんの思いがかくれています。
読者の気持ちを研究するため、今は朝小をじっくり読むのが日課です。


平成
1989年(昭和64年・平成元年)~ 平和とやさしさを大切に

90年代に入って、イラクとアメリカなど多国籍軍が戦った湾岸戦争が世界をゆるがしました。まんがでも、このニュースを取り上げています。
日中戦争と太平洋戦争を経験した泉さんには、平和への特別な思いがあります。今の小学校にあたる国民学校6年のとき、戦火から逃れるために東京から福島に学童疎開しました。親もとをはなれての学校生活です。
「そこでいじめにあってね。自殺しようと、死ぬ場所まで考えたの」。思いとどまったのは、育ててくれたお姉さんとお国のために、りっぱな軍人になって死のうと考えたからです。
戦争が終わり、平和とやさしい気持ちが大切と身にしみて感じました。「平和がいいよねと、まんがでも伝えたいですね」


1999年(平成11年)~ 変わる生活、変わらない心
家のテレビがブラウン管から薄型になるなど、50年でジャンケンポンの生活も変わりました。
2000年代には子どもたちのあいだでも携帯電話が広まり、まんがに登場します。「でも、3人には持たせていません」と泉さん。「スマホやパソコンで肩がこったと言っているのは、パパくらい」
変わらないものもあります。「季節感は大切にしていますね」。朝小の連載「春夏秋冬楽しく俳句」で、子どもたちの句は欠かさずチェック。スケジュール表には、季節のイベントなどを書きこんでいます。
「梅雨の季節になったね」「今夜は満月だね」。まんがを読んだ家庭でこんな会話が生まれたら、「作者としては、とても満足」と話します。


2009年(平成21年)~ 悲しみもよろこびも共に
11年3月11日に起きた東日本大震災。被災して、不安な毎日を送った子どもたちが大勢いました。16日付でネコのミーヤは悲しくて何も言えないと涙をこぼし、18日付ではキャットフードを被災地に送ろうとします。
ふだんは悲しいできごとはえがかないようにしているので、どうしたら子どもたちをはげますことができるかと迷ったそうです。「無邪気なミーヤだったら、少しでも明るい気持ちになってもらえるかも」と考えました。
16年には「最も多く発行された4コマまんが」としてギネス世界記録に認定。連載50年も「通過点」だといいます。「特別うれしいという気持ちはないんです。明日からも、同じようにかき続けたい。それには元気でいないといけませんね」


令和
2019年(令和元年)~ ギネス世界記録更新中

初公開! 仕事場におじゃましました
泉先生の仕事場をご案内します。

本だなには、辞典や図鑑など、作品をかくための資料がいっぱい並んでいます。まんがをかくときに、調べ物をしたり、参考にしたりするそうです。毎日、ジャンケンポンのことばかり考えているんですって。
机の前には、ジャンケンポンのしめきりが書いてあるスケジュール表がはってあるのよ。先生、がんばって!

ぼくやミーヤの顔をかくときに何を使うか知ってる? 丸をかくじょうぎを使ってるんだって!


机の上には太さや形がちがうペンがいろいろあるよ。まんがの線は、金属でできたペン先に黒インクをつけて書くことが多いんだって。


ラベルシールは、せりふを書き直すときに上からはって使うよ。スクリーントーンは、もようがついたフィルムで、かげや洋服の柄などを表現するときにはる。はりまちがえたときは、ドライヤーでのりを温めてはがすんだ!
泉昭二先生の1日
午前
8時:起きる
9時:まんがの下がきを編集部にファクスで送る
9時半:朝ごはん
10時:新聞やラジオから、まんがの情報を集める
午後
0時:新しいまんがの案を考え始める
4時:午前中の下がきを完成させて編集部に送る
6時:買い物
7時:夕ごはん。食後はテレビを見て情報を集める
午前
0時:寝る
泉昭二先生にインタビュー
(朝日小学生新聞2019年9月30日付)

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