大谷義夫先生の「知っ得カルテ」

スギ花粉に悩む方が増え始めています。北海道ではスギ花粉でなくシラカバ花粉が、沖縄ではイネ科の花粉が問題になりますが、北海道出身の方も沖縄出身の方も、本州に転居すれば数年でスギ花粉の抗体ができ、スギ花粉症を発症する可能性があります。スギ花粉とヒノキ花粉はたんぱく抗原が似ているので、スギ花粉症の方はヒノキ花粉症も発症し、ヒノキ花粉が飛散する5月連休明けごろまで辛い症状が続くことがあります。

バケツ理論とシーソー理論

花粉症の発症には、花粉が体内に入って抗体ができ、抗体が多量になってバケツからあふれると発症するバケツ理論で例えられたことが多いのですが、シーソーで考えると理解しやすいと思います。シーソーの右がその年の花粉飛散量、シーソー左がその人の抵抗力とします。花粉飛散量が多い年、またはストレスなどで抵抗力が低下すればシーソーが右に傾き、発症してしまいます。花粉飛散量が少ないか、抵抗力が高ければシーソーはバランスを保ち、発症しません。

自分に合う対策を

花粉症の症状が始まる前から予防する初期療法では、抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン薬などの抗アレルギー薬を服用します。

症状が出てくれば、経口薬だけでなく、点鼻薬や点眼薬も併用します。医療機関を受診する時間がとりにくい方は、薬局で市販薬を購入し、それでも症状を抑えられなければ医療機関の受診を考えてもいいと思います。

抗ヒスタミン薬と点鼻薬を使用しても辛い重症花粉症の方には、ゾレアという注射薬を処方する方法があります。月1~2回の注射で劇的に改善します。IgE抗体(アレルギーの数値)と体重によって、注射の本数がかわり、保険3割で自己負担は月に約5~7万円、平均で月2~3万円と高額なので、医療機関と検討してください。

自分でできる予防も大切です。通常のマスクで花粉を吸い込む花粉を約70パーセント削減、通常のメガネで約40パーセント、防御カバーのついた花粉症用のメガネでは約65パーセント減少します。ウールの服には花粉が付着しやすいので化繊や絹、綿の素材をお勧めします。

新型コロナやインフルエンザ対策で窓を開けて換気する時も、幅を10センチ程度にし、レースのカーテンをすることで室内へ流入する花粉をおよそ4分の1に減らすことができるという報告もあります。

政府から発表された花粉症の根本治療に、アレルゲン免疫療法という、スギ花粉に対して身体をならしていく舌下免疫療法があります。ただし、スギ花粉の飛散がない6月~11月に治療を開始するので、まずは今シーズンの花粉症を乗り切ることが大事です。

大谷義夫(おおたに・よしお)

1963年生まれ。89年に群馬大学医学部卒業。東京医科歯科大学呼吸器内科兼任睡眠制御学講座准教授を経て、現在、池袋大谷クリニック院長。 呼吸器内科のスペシャリストとして新型コロナウイルス対策などでも情報発信をおこない、患者に寄り添う具体的なカウンセリングに定評がある。

(朝小かぞくの新聞2024年2月20日号)