起業家イーロン・マスクさんの会社が、人の脳の活動を読み取る装置を脳にうめこむ実験に成功しました。脳とコンピューターの接続は、未来をどう変えるのでしょう?

脳に装置 「考えるだけ」で機械の操作を可能に
Q ブレーン・コンピューター・インターフェースや脳インプラントってなに?
A 脳とコンピューターなどを直接つなぐ技術とそのための装置

ブレーン・コンピューター・インターフェース(BCI)やブレーン・マシン・インターフェース(BMI)は脳とコンピューターをつなぐ技術で、数十年も研究されてきました。特に最近は、脳の活動を精密に読み取るため、電極(電気信号を取り出す部品)を手術などで脳にうめこむ「脳インプラント」という装置の開発がアメリカ(米国)を中心に活発です。
脳の活動をどう読み取るのでしょうか? 答えは電気信号です。脳は頭がい骨の中にあり、脳脊髄液という液体に浮かんでいる、豆腐のようにやわらかい臓器です。その表面には大脳皮質という部分があり、数百億の神経細胞(ニューロン)が集まっています。1立方センチメートルあたりで数千万個もの細胞の集まりです。
私たちが何か行動を起こすとき、脳の決まった場所の神経細胞が興奮し、電気信号が流れます。手、足、口、目など、それぞれを動かすための指令を出す脳の領域(運動野)が決まっているのです。
例えば、手の領域に電極を多数うめこんでおけば「手を動かしたい」と考えたときの信号を細かく検知できます。「手をこのように動かそうとしているのだな」と読み取れるのです。
Q どんなことができる? いいことばかり?
A 障がいがある人の助けになりそう。倫理面や安全面の課題も

考えるだけでコンピューターのマウスを操作できたり、文字入力ができたりするようになります。筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの病気や障がいで言葉を話せない人とも、コミュニケーションできるようになります。
背骨の中にある脊髄をいためた人が手足を動かす助けになるほか、将来は認知症やうつ病などにも応用が期待されています。脳の仕組みの理解にもつながります。
一方で、注意して使わなければいけない点も出てきそうです。例えば、今よりもはるかに技術が進み、個人の考えていることや感じていることが読み取れるようになったら、プライバシーやセキュリティーの心配が出てきます。
外から信号を入力して、記憶力や学習能力といった脳の働きを増やすこともできそうです。けれども倫理的にどこまでそれが許されるのか、また技術を使えるお金持ちと、使えない人との間で新たな格差が生じるかもしれません。
安全性の問題もあります。現在の技術では、一度入れた脳インプラントの寿命は数年程度です。体外から入ってきたものに対する体の反応や、出血、炎症によって電極近くの神経細胞が死んでしまうためです。このような技術的な課題も解決しなければなりません。
最近のNEWS
米国では人への手術も ベンチャー企業が開発競う
今年3月、米国の会社「ニューラリンク(Neuralink)」が初めて、脳インプラントを手術でうめこんだ人を「X」(旧ツイッター)で紹介し、話題になりました。ダイビング事故で肩から下がまひしてしまった29歳の男性で、脳インプラントによってコンピューターを操作できるようになりました。オンラインチェスのこまを動かしながら「とてもクール!」と喜びを語りました。
この会社はイーロン・マスクさんたちが2016年に創業しました。米国では04年に世界初のヒトの脳インプラントの実証が行われ、投資がさかんになり、複数のベンチャー企業が技術開発を競っています。
(朝日小学生新聞2024年4月12日付)

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