作者・久米絵美里さんに聞く

「言葉を口にする勇気」と「言葉を口にしない勇気」を提供するお店「言葉屋」を舞台に、一人前の職人をめざして修行する主人公・古都村詠子の成長をえがいた人気シリーズ「言葉屋」。4月に10巻が発売され、物語は完結しました。作品を通して届けたかったメッセージとは。作者の久米絵美里さんに聞きました。(戸井田紗耶香)
出会った方や私が合わさり登場人物に
読者の手紙に感謝
「言葉屋」シリーズは、朝日小学生新聞で2014年7~9月に連載し、その後出版された『言葉屋 言箱と言珠のひみつ』から続く物語です。子どもだけでなく、大人にもファンが多く、私立中学15校の入試問題にとりあげられるなど支持を広げてきました。
久米さんは「読者の方が詠子たちと一緒に考え、行動してくださることで初めて完成する物語」だととらえています。
以前、読者の一人から「『言葉屋』を読んだことがきっかけとなってお友だちに勇気を出して声をかけ、より深いきずなをきずくことができた」という手紙をもらいました。「その時は、私の方が感謝の気持ちでいっぱいになりました」とふり返ります。
いきいきとえがかれる登場人物も魅力のひとつです。詠子の親友でいつも元気なしぃちゃん、言葉屋のあるじで、詠子に助言するおばあちゃん――。「どの人物も特定のモデルはいないんです」と久米さん。「私がこれまでに出会った方が自然に合わさったのだと思います。私自身も、いろいろな登場人物たちに少しずつ入っている気がします」
正解ないところが言葉の魅力かも
主人公の詠子は小学5年だった1巻から修行を始めて、10巻では中学3年に。その間、さまざまな人間関係で多くのなやみに直面します。
「言葉にまつわるなやみは、大人になってもあります。私もいまだに毎日、頭をかかえています。でも、正解がないところが言葉の魅力なのかもしれないと思うようになりました」
小さいころの久米さんは、人間関係でなやむと「こんなことになやむのは私だけ。私のせいなんだ」と考えて大人に相談できず、口を閉ざすことが多かったと言います。
ところがつい先日、20年以上前の自分とまったく同じなやみをSNSに投稿している人を偶然見かけました。その投稿へのコメントには「そんなふうに感じるのはあたりまえだよ! だれでもそうだよ」とあって、その言葉に「ものすごく救われた」そうです。「投稿者はなやみを大人とシェアする(分かち合う)ことができて、コメントにはげまされて前へ進んでいきました。そのやりとりが私の心まで救ってくれたんです。言葉にはなんて底知れない力があるのだろうと感動しました」

失敗も後で「花」に
だからといって、なやみを人に話さないことにした久米さんの20年前の選択がまちがっていたか?というと、「きっとそうでもない」と考えています。「あの時、人には言わず自分の中でかかえて、ずっと考え続けたことが、小説を書く原動力になったからです。そのおかげで、今、こうして読者の方とつながることができていると思うと、あの時の選択も正解のひとつの形だったのだと思います」
みなさんも、人には言えないなやみをかかえることや、あんな言葉は言わなければよかったと後悔することがあるかもしれません。久米さんは「失敗だと思っていた言葉も、何年か後に急に花をさかせることがあります。これからも、みなさまがたくさんのすてきな言葉に出合えますよう、心からいのっています」とエールを送ります。
『言葉屋10 さようであるならば』

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くめ・えみり
1987年、東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業。「言葉屋」で第5回朝日学生新聞社児童文学賞を受賞。『嘘吹きネットワーク』(PHP研究所)で、第38回うつのみやこども賞を受賞。おもな作品に「言葉屋」シリーズ、『君型迷宮図』(どちらも朝日学生新聞社)など。4月から朝日中高生新聞で、小説「3倍速ドッペルゲンガー」を連載中。
「3倍速ドッペルゲンガー」過去6回分のあらすじはこちらから
(朝日小学生新聞2024年5月16日付)
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