『うろおぼえ一家のおかいもの』から

 「おぱんちゅうさぎ」や「ちいかわ」、「すみっコぐらし」など、最近人気のキャラクターには共通点があります。それは、かわいそうな目にあいがちなキャラの「ふびんさ」が「かわいい」と、多くの人に愛されている点です。実は絵本の世界にも、「ふびんかわいい」キャラはたくさんいます。絵本研究家・寺島知春さんに紹介してもらいました。(関田友衣)

キャラの姿から希望も見いだして

ここ最近、「ふびんかわいい」キャラが大人気です。

クリエーター「可哀想に!」が手がけるおぱんちゅうさぎもその一例。例えば、おぱんちゅうさぎは、前から2列目のコンサートチケットを手に入れて大喜びします。しかし、当日会場に着くと、1列目にはどうの長いダックスフントが! 結局、5列目に追いやられてしまいます。そんなおぱんちゅうさぎをはじめとする「ふびんかわいい」キャラは、見る人に親しみを覚えさせ、いとおしさをも感じさせてくれます。

寺島さんによると、絵本の世界にも「ふびんかわいい」キャラはいるそうです。ただ、絵本は基本的に「希望の方向を向いているもの」。ふびんかわいいを楽しむだけでなく、「キャラたちが、報われなさを受け入れたり、行動したりする姿から、希望も見いだしてほしいです」。

『おぱんちゅうさぎ』(作 可哀想に!、KADOKAWA、2024年) ©kawaisouni!

この本をAmazonで見る
(外部リンク)

体重が重すぎて失敗続き

『ぼちぼちいこか』

カバくんが、船乗りや飛行士、ピアニストなどの仕事にチャレンジ。しかし、体重が重すぎることが原因で失敗続きです。そんなカバくんがかわいそうで、いとおしく感じる一方、「彼は決してめげない。しかも関西弁の日本語訳に、あっけらかんとした雰囲気があり、何度失敗しても大丈夫と思える作品です」。

『ぼちぼちいこか』(作 マイク・セイラー、絵 ロバート・グロスマン、訳 今江祥智、偕成社、1980年)

この本をAmazonで見る
(外部リンク)

真剣なのに終始ダメダメ

『うろおぼえ一家のおかいもの』

主人公は、「うろおぼえ」気質のあひる一家。買い物に出かけてみたはいいものの、何を買うのかうろおぼえで、道中いろんな動物にヒントをもらいます。あひるの一家はみな、いたって真剣なのに、「終始ダメダメなところが、ふびんかわいいポイント。『がんばらなくていい』というメッセージも伝わってきます」。

『うろおぼえ一家のおかいもの』(作 出口かずみ、理論社、2021年)

この本をAmazonで見る
(外部リンク)

強そうなのに孤独な巨人

『街どろぼう』

山の上に住んでいる孤独な巨人は、ある日、ふもとの街から家を1軒持ち帰ります。住民の願いで街から家が次々と呼び寄せられ、山の上はにぎやかに。しかし、巨人のさびしさはいえません。「強そうなのに孤独な巨人は、かわいそうでかわいい。SNSで多くの人につながっているけれど、さびしいという現代の感覚に通ずる内容でもあります」

『街どろぼう』(作 junaida、福音館書店、2021年)

この本をAmazonで見る
(外部リンク)

家族への不満が爆発

『ほげちゃん』

ほげちゃんは、ゆうちゃん一家と暮らすぬいぐるみ。日々、ケチャップをつけられたり、おならをかけられたりと、散々な目にあっています。しかし、お留守番のとき、ほげちゃんは家族への不満を爆発させるのです。「実に『ふびんかわいい』ほげちゃんですが、家族の目がないと、大暴れするというギャップがおもしろい!」

『ほげちゃん』(作 やぎたみこ、偕成社、2011年)

この本をAmazonで見る
(外部リンク)

てらしま・ちはる

 絵本研究家。約400冊の絵本を毎晩読み聞かされて育ち、編集者を経て現在に至る。絵本や遊びに関するワークショップを全国で開催中。著書に『非認知能力をはぐくむ絵本ガイド180』(秀和システム)

(朝日小学生新聞2024年8月20日付)

※本サイトに掲載されるサービスを通じて書籍等を購入された場合、売上の一部が朝日学生新聞社に還元される事があります。