はやみねかおるさん。代表作の一つ「都会のトム&ソーヤ」シリーズの本をずらりと並べた前で=2023年、小勝千尋撮影

『ぼくと未来屋の夏』 前向きになりたい人におすすめ

中原梨央さん(東京都・5年)

紹介した本

『ぼくと未来屋の夏』(絵 武本糸会、講談社青い鳥文庫)

夏に読みたくなる本はありますか。私は『ぼくと未来屋の夏』です。表紙の青い海と空、走り出てきそうな登場人物、勢いある「夏」の字。そして、前向きな気持ちになるストーリーが魅力です。

これは、小学校六年生の風太くんが未来屋の猫柳さんと出会って始まる、夏休みの冒険ストーリーです。町の伝説「神隠しの森」などに関する真実を解き明かします。 

私は、未来を知るのは無理だと思っていました。でも、「将来にかならずおこる事実」を売る猫柳さんが、情報をうのみにせず真実を探る姿から気付きました。真実の積み重ねが未来だと。

この本を読むと、今を思い切り楽しむことを続ければ、明るい未来をつかめる気がしてきます。ミステリー好きの人はもちろん、前向きになりたい人にもおすすめです。

今年の夏、『令夢の世界はスリップする 赤い夢へようこそ -前奏曲-』という本で、風太くんと猫柳さんを見つけました。はやみねさんの赤い夢の世界に再登場したのは、続編発表という未来が待っているからでしょうか。そんなワクワクも感じてみませんか。

【はやみねかおるさんのコメント】

 読んでいるうちに「読みたいな」という気持ちを高めさせる構成が、すごく見事です。「夏に読みたくなる本はありますか」という呼びかけで始めていて、非常に工夫を感じました。途中では、「真実の積み重ねが未来だ」という自分の気づきが書かれている。作者でも思っていなかったことをここで書いてもらって、自分なりの答えを書くことの大事さを、教えられた思いです。その次の、「今を思い切り楽しむことを続ければ、明るい未来をつかめる気がしてきます」には説得力があります。自分なりの考えを説得力を持って書けるというのは中原さんの個性ですね。

 そして最後に『令夢の世界はスリップする』を紹介してくれました。ちがう本を出したことに、評価をどうするか迷いましたが、ぼくはほかの本の紹介もしてもらって嬉しかったもんで、高評価としました。

『4月のおはなし ドキドキ新学期』 お兄ちゃんがほしくなる

尾谷知咲さん(兵庫県・2年)

紹介した本

『4月のおはなし ドキドキ新学期』(絵 田中六大、講談社)

タケシくんという三年生の男の子がしゅ人公です。タケシくんには一年生の妹、春ちゃんがいます。春ちゃんは天才とよばれ、いつもどうどうとしていますが、それにくらべてタケシくんは、じ分にじしんがもてません。タケシくんがそのことをうちあけると、春ちゃんはま夜中までかけて、タケシくんにじしんをつけるどうぐをつくります。そのどうぐで、どうやってタケシくんはじしんがもてるのでしょうか?

春ちゃんがお兄ちゃんのためにじ間をかけてどうぐをつくるところで、やさしい妹だなあ、お兄ちゃんが大すきなんだなあ、と思いました。また、おどろくのは春ちゃんの天才ぶりです。二才でほとんどのかん字をおぼえたなど、本を読んだ人は思わず「本当に一年生?」と言ってしまうかもしれません。天才の妹とじしんをもてないお兄ちゃんが、おたがいを思いやる、心があたたかくなるお話です。わたしも、タケシくんみたいなお兄ちゃんがほしくなりました。

【はやみねかおるさんのコメント】

 本当にすごく素直な文章ですね。最初にキャラクターの紹介、次にあらすじ、それに対する感想。これらがお手本のように素直に書けています。素直な文章というのはなかなか書けないんですよ。特に本を読み出して、たくさん本の知識が入ってくると書きにくい。こういうふうに素直な文章が書けるのはすごいなと思いました。

 この親しみやすい文章が尾谷さんの特徴だと感じましたし、最後に「わたしも、タケシくんみたいなお兄ちゃんがほしくなりました」という2年生らしい締めくくりでビシッとおさえる。この構成も見事やなと思いました。

優秀者に選ばれたふたりには、あこがれのはやみねさんにインタビューできる機会がもうけられました。ここからは、朝日小学生新聞10月14日付でのせきれなかった、インタビュー記事の続きです。

「今日が一番おもしろかった」と思える毎日を

尾谷さん 長いお話を考えるのは大変ではないですか。どうやって思いつくのですか。

はやみねさん 長いお話を考えるのが好きで、長いお話を短くまとめていく方が苦手なんです。どのようにして思いつくのかというと……。2人は将来、お話を書く人になりたいですか?

尾谷さん・中原さん はい。

はやみねさん お話を書く仕事はずっと机に向かうので、運動不足になりやすい。なので私は毎日、走っています。今日もさっきまで走っていました。こう聞いたときに、「そうか小説家になるには、体を動かさないと」と思った子がいたとします。その子は「よし明日から毎日トレーニングしよう!」と運動を始める。するとそっちの方面でものすごく才能が出て、オリンピックで金メダルが取れそうなくらいになってしまう……。なんていう話を、ぼくは考えてしまうんです。それでその子はどうするだろう?とか考えていくと、もうそれだけで、どれだけでも長いお話がうかぶ。2人ももし小説家みたいな仕事をしたかったら、いろいろなことを想像して考えていくくせをつけるといいですよ。

中原さん お話にはクスッと笑える登場人物たちのやりとりがたくさんあるので楽しいです。周りの人を笑顔にする、ユーモアセンスをきたえる方法が知りたいです。

はやみねさん ぼくは周りにいる人を、おどろかしたり、笑わせたりするのが好きなんです。手品やクイズも好き。いつも、周りの人が笑顔になってくれるようなことはないかな、と考えています。

中原さん はやみねさんの作品はどれもハッピーエンドで明るい気分のまま読み切れるところが好きです。毎日をハッピーエンドにするために心がけていることはありますか?

はやみねさん ぼくは、いつも今が一番おもしろいな、今が最高だと、何が何でも言えるようにしたいなと思っています。寝るときも、今日が一番おもしろかったなって思うようにしています。

読者2人が、オンラインではやみねかおるさんにインタビューしました=10月5日 ※画像の一部を加工しています

人生、何が起こるかわからない

中原さん わかりやすい文章を書くこつはありますか?

はやみねさん 小学校の先生をしていたころから心がけていたのは、主語と述語が基本ということ。文が長くなると、主語がどこへつながっているのかがわかりにくくなるから、とにかく短くする。句点はできたら一つもしくはなし、多くても二つというのを心がけています。

尾谷さん 夢水清志郎のモデルはいますか?

はやみねさん 20歳のとき、小学校の先生になるか、小説家になるか迷っていました。小説の新人賞に原稿を書いて送ろうと思っていたとき、ぼくの夢の中に出てきて、「自分を主人公にして小説を書け」って言うてくれたんが、夢水です。夢の中で、長編の推理小説の事件「神隠島」と三つの短編になる事件を教えてくれたんです。それでぼくは「神隠島」の原稿を大学時代にいろんな出版社に送りましたが、全部落ちました。このときは大人向けの小説でした。

もうこれは才能がないんだと思って、小学校の先生になったんです。でもその後、子ども向けを書いてみたら、デビューできました。こうやって小説家としてずっと仕事をもらえている。人生、何が起こるかわからないですよ。2人もね、これからどんどんおもしろくなります。楽しみですね。

中原さん たくさん本を出されている中で、まず読んでほしい一冊はありますか。

はやみねさん デビュー作の『怪盗道化師』(講談社)。これを書いて、子ども向けに書きたいな、自分が書いてもいいかなっていうことがわかりました。