400年以上前の江戸時代の初めに生まれた歌舞伎は、いまも毎日のように上演され続けているおしばいです。豪華なセットの舞台で、はなやかな衣装をつけた俳優が演技をしたり、おどったりします。(監修 武蔵野音楽大学特任教授・中川俊宏さん、協力 独立行政法人日本芸術文化振興会)
かぶき者(もの) 女方(おんながた) 隈取(くまどり) 見得(みえ) 花道(はなみち) 黒御簾(くろみす) 歌舞伎のことば 歌舞伎を見るには 歌舞伎のしごと
【かぶき者】ファッションリーダーがモデルに
戦国時代が終わり、平和な世の中になると、町人にも、武士にも、ファッションリーダーのような存在の「かぶき者」という人たちが現れました。こうした人たちをモデルにした「かぶき踊り」が、歌舞伎の始まりだといわれています。
「かぶき」は、漢字では「傾き」と書いて「奇抜なかっこうや行動をする」といった意味のことばでしたが、やがて「歌舞伎」という漢字が当てられるようになりました。「歌」は音楽、「舞」はおどり、「伎」は演技を指し、そのすべてが楽しめる芸能です。

【女方】すべての役を男性だけで演じる
「かぶき踊り」は、出雲のお国という女性が京で始めたといわれます。しかし、あまりにも人気が過熱して、やがて女性の歌舞伎は幕府に禁じられます。つぎに流行した少年たちの歌舞伎も禁じられ、成人の男性だけで演じられるようになりました。女性の役を演じる人は女方(おんながた)、男性の役を演じる人は立役(たちやく)といいます。
下の錦絵は、「暫(しばらく)」という有名な演目の一場面です。みんな特徴のある化粧や衣装、かつらで、ひと目見ただけで、どんな役柄かがわかります。江戸時代のしばい小屋にはいまのような照明がなく、うす暗かったので、お客さんへのわかりやすさが求められたといわれます。

お姫さまは赤姫(あかひめ)とも呼ばれ、赤い衣装にごうかな髪かざりで着かざっています。

年配の女性は、落ち着いた衣装に歯を黒くぬるお歯黒をしています。

女方の役者は、姿勢や歩き方、しぐさなどにも工夫を重ねて、それぞれの役にあった演技をします。
【隈取】役柄がひと目でわかる化粧
隈取(くまどり)は、歌舞伎独特のメイクです。錦絵をさらに見ていきましょう。

この人は、このお話の主人公です。顔全体にぬったおしろいの上にえがかれた赤い筋は、隈取のひとつ筋隈(すじぐま)というお化粧です。筋肉のもりあがりを赤で立体的に表していて、超人的な力を持ったヒーローであることを示しています。

一方で、青いお化粧をしたこの人は、いかにも悪そうな顔をしていますね。公家荒(くげあれ)という隈取で、身分が高く、国を乗っ取ろうとするような大悪人の役に用いられます。
【見得】決めポーズで印象づける

上の錦絵(にしきえ)に登場する3人の男たちは、みんなポーズを決めていますね。実際の舞台の上でも、俳優はこのようなポーズを取って一瞬だけ動きを止めます。見得(みえ)といって、感情の高まりなどを表現し、お客さんに印象づける効果があります。見得がビシッと決まると、大向こうと呼ばれるお客さんから、かけ声がかかったりします。
ほかにも、一瞬で衣装がかわる引き抜きやぶっかえり、花道の上を天井からつるされた俳優が飛ぶように移動する宙乗りなど、俳優の演技をもりあげる演出はたくさんあります。
【花道】舞台にはおどろきのしかけ

花道は、舞台から客席にのびる、ろうかのような道です。客席の奥から登場した俳優は、お客さんの近くを通って舞台へと向かいます。花道の一部には、スッポンという上下に動く床があって、ここからはお化けや妖怪など、この世のものでない役の人が現れます。
舞台の中央は丸く切ってあります。まわり舞台といって、俳優や建物などのセットをのせたまま、ぐるりと回転して、すばやく場面転換ができます。また、舞台の一部にも上下に動かせるセリがあります。大小さまざまなセリがあり、奈落と呼ばれる床下から、俳優やセットが登場します。
おしばいが始まるときは、舞台の下手から上手に向かって定式幕(じょうしきまく)が開きます。「定式」は「いつも使うもの」という意味があり、国立劇場の定式幕は左から黒、萌葱(もえぎ)色、柿色の3色が使われます。
【黒御簾】和楽器の「オーケストラ」

上の錦絵にえがかれているのは、本番の前の練習風景です。三味線や太鼓(たいこ)、鼓(つづみ)などを演奏している人がいますね。和楽器のオーケストラともいえる編成です。舞台の上で演奏することもありますが、舞台の黒御簾(くろみす)という窓にすだれがかかった小さな部屋から、音楽や効果音を演奏するので、こう呼ばれます。下座(げざ)とも呼ばれます。
絵の中央から右よりに、両手で2本の四角い木を床に打ちつけている人がいます。ツケといって、俳優の演技を強調する効果音を出します。俳優が見得を切るときも、ツケを打ってもりあげます。
【歌舞伎のことば】二枚目と三枚目
江戸時代のしばい小屋の入り口には、出演している俳優の名前を書いた木の看板がかかげられていました。1枚目の看板には主人公、2枚目は顔を白くぬった色男の役、3枚目はおもしろいキャラクターの道化役の名前が書かれていました。このことから、二枚目といえばかっこいい人、三枚目はおもしろい人のことを指すことばになりました。
【歌舞伎を見るには】
東京の歌舞伎座は、歌舞伎専用の劇場で1年中上演しています。ほかに、東京・新橋演舞場、愛知・御園座、大阪・松竹座、京都・南座、福岡・博多座などでも歌舞伎が見られます。東京の国立劇場は、建てかえのために閉場中ですが、ほかの劇場で公演を続けています。全国の映画館で見られる「シネマ歌舞伎」もあります。

【歌舞伎のしごと】
歌舞伎俳優や和楽器を演奏する人など舞台の上で活躍する人のほかに、大道具、衣装、かつらなどを準備する人、劇場でお客さんをむかえる人など、さまざまな人がかかわっています。歌舞伎俳優や歌舞伎音楽を担う人を育てる制度もあり、国立劇場伝統芸能伝承者養成所]で2年間(長唄は3年間)の研修を受けた後、師匠について本格的な修業を始めます。
監修 中川俊宏(なかがわ・としひろ)

武蔵野音楽大学特任教授。専門は文化史、アートマネジメント。国立劇場調査養成部に勤務、文化庁・芸術文化調査官、武蔵野音楽大学教授などをつとめ現職。
日本芸術文化振興会が運営するサイト文化デジタルライブラリーなどを参考にしました。

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