児童文学作家の中川李枝子さんが14日、亡くなりました。89歳でした。「ぐりとぐら」「いやいやえん」など、長く愛される数々の作品を生み出し、ジブリアニメ「となりのトトロ」ではオープニング曲「さんぽ」の作詞も手がけました。朝日小学生新聞の2016年のインタビューでは、童話「くじらぐも」にこめた子どもたちへの思いを語ってくださいました。心からご冥福をお祈りします。

(ここからは2016年9月29日付の記事を再編集してお届けします)

中川李枝子さん=2016年

「学校を好きになってね」

「ぐりとぐら」シリーズで知られる児童文学作家の中川李枝子さんは、戦争の影響もあって小学校を何度も転校し、北海道で終戦をむかえました。小学1年生の国語の教科書にのせるために書いた「くじらぐも」には、「学校を大好きになってもらいたい」という思いがこもっています。(岩本尚子)

中川さんのデビュー作の『いやいやえん』は、保育園で働いていた20代前半に、読んで聞かせる作品として書いたものでした。「ぐりとぐら」シリーズなども、おもに小さい子ども向けの作品です。

転校をくり返した小学生時代、空を見て友だちを思う

――「くじらぐも」は1971年から光村図書の国語の教科書にのっています。1年生が教科書で最初に読む作品として、たのまれて書いたそうですね。

「あいうえおを覚えた子どもが、読むことの楽しさを知るために書いて」といわれたの。大変よ! 1年かかったわ。作品の中でいちばん苦労したの。本はつまらなかったら読むのをやめられるけれど、教科書は無理にでも読まなきゃいけないでしょ。1年生が本をきらいになったらこまるもの。

1年生に関していろんな資料を集めて、研究したのよ。自分が小学生の時も思い出してね。

――どんな小学生時代をすごしたんですか。

学校が大好きでした。4校行ったの。3年生で東京から北海道の札幌に疎開したの(疎開は、戦争の空襲に子どもがまきこまれないように、田舎にあずけられることです)。

私、転校しても平気なのよ。毎日元気に学校に行ってたわ。

前にいた学校がなつかしくなると、共通点を探すの。おんなじなのは校庭。教室はみんな「コの字」に建ってて、真ん中が校庭。そんなところを見るとほっとしてね。

いつも空を見てたのよ。「別れた友だちはどうしてるかな」って。空はつながっているからね。

日本中の1年生が主人公のお話を

――「くじらぐも」は体育で校庭に出た1年2組のみんなが、雲のくじらと空で遊ぶお話ですね。

私が子どものころ、校庭で体操なんてできなかったのよ。空襲があるからね。安心して手足をのばして体操できるなんて、平和のあかしじゃない。校庭でみんなが元気いっぱい、とんだりはねたりできる幸せ。

――そうして空を泳ぐ雲のくじらが、校庭に登場するお話になったんですね。

北海道の子も沖縄の子も同じ教科書を使うんだったら、4月に桜のお話じゃだめよね。みんな公平に、自分が主人公にならなくちゃ。田舎でも都会でも、学校がおんぼろでも新しくても、校庭に出た時の解放感は同じでしょう。

時間は4時間目がいいなと思ったの。おなかがすいてきて、空から学校にもどると給食室からいいにおいがして、みんながほっとするんじゃない?って。それで4時間目の体育の時間って決めたんです。

――お話の場所や時間、設定を決めるまでが大変だったんですね。文章はどんなふうに書いたんですか。

その風景の中の子どもたちを見ていて、舌の長い子も短い子も、どの子でもすらすら読めるようにできないかなって思ったの。音読しますからね。1年生みんなが成績1番になれるようなものを書かなきゃいけないと思うし、いろいろ大変なのよ。読みやすくて話しやすくて、北から南まで男の子も女の子も、公平にね。

――読者のお父さんやお母さん、先生も学んだ作品を、今の子どもたちも読んでいます。

苦労のかいがあって、うれしいわよ。学校を好きになって、お友だちを好きになってね。

光村図書の教科書「こくご1下 ともだち」にのっている「くじらぐも」は、『くじらぐもからチックタックまで』(編 石川文子、フロネーシス桜蔭社)でも読めます

子どもは「歩くの大好き」

――ジブリアニメ「となりのトトロ」ではオープニング曲「さんぽ」などの歌詞を手がけました。

宮崎駿さんに「映画をはなれても子どもが歌ってくれる歌を作りたい」って依頼されて、久石譲さんのいいメロディーがついたの。子どもってほんとに外が好き。歩くの大好きなの。でも戦争中は、道草は絶対いけないっていわれたのよ。自由に歩き回れるって、うれしいことよね。

中川李枝子さんの作品

『ぐりとぐら』(作 中川李枝子、絵 大村百合子、福音館書店)
『いやいやえん』(作 中川李枝子、絵 大村百合子、福音館書店)

中川李枝子(なかがわ・りえこ)

 童話作家。1935年9月29日生まれ、北海道出身。保育園につとめながら書いた『いやいやえん』で野間児童文芸推奨作品賞、厚生大臣賞などを受賞する。「ぐりとぐら」シリーズの累計発行部数は約2500万部。そのほかの代表作に『そらいろのたね』『ももいろのきりん』『子犬のロクがやってきた』などがある。

(朝日小学生新聞2016年9月29日付の記事を再編集)