進むデジタル化 便利さの一方で日本に危機
日本でいま、貿易の「デジタル赤字」が増えています。形のないデジタル製品を海外からどんどん「輸入」することで、さらなる円安や物価高につながる心配があるのです。

Q デジタル赤字って?
A デジタルの支出が収入を上回る状態

「赤字」とは、使うお金が入るお金より多いことをいいます。経済のことばを使うと、「支出が収入を上回ってしまう」状態のこと。その逆が「黒字」です。
赤字や黒字は私たち一人ひとりの財布の中でも起きますし、国の貿易でも起こります。中でも国の貿易で注目されているのが、デジタル赤字です。
一般的な貿易と、デジタルの貿易とは大きなちがいがあります。日本とアメリカ(米国)の例で考えてみます。
一般的な貿易では、日本から米国に車や電化製品を輸出したり、米国から日本に食べ物や衣類を輸入したりします。ここで起きているのは「モノ」のやりとりで、日本が長年、得意としてきました。
それに対してデジタルの貿易は、日本の会社が米国のソフトウェアを使ったり、逆に米国の人が日本のオンラインゲームを楽しんだりするときに行われます。つまりインターネットを通じて、実際は手に取れない「サービス」や「デジタル製品」などを、国をまたいでやりとりしているのです。
その中でグーグル、アップル、アマゾン、マイクロソフトなど「ビッグテック」と呼ばれる巨大企業が、存在感を増しています。どれも米国の会社で、スマートフォンやパソコンで基本となるシステム(OS)や仕事で使うソフト、デジタルのデータを管理する「クラウドサービス」などを世界各地で展開しています。

日本でも、こうしたデジタル製品やサービスを「輸入」して、どんどんお金を出しています。そうして国全体の支出が、外国に輸出して得られる収入より多くなるのがデジタル赤字です。
Q 赤字が増えたらどうなる?
A 円安や物価高がさらに進むかも

より便利で楽しいものが手に入るのはいいことですが、国全体でみると問題もあります。
海外からサービスやデジタル製品を買うときは、自国の通貨(日本なら円)を売り、海外の通貨に両替する必要があります。すると、自国の通貨の価値が下がりやすくなるのです。日本でこれが起きるのが「円安」です。
食料品やエネルギー資源を輸入にたよる日本では、円安がさらに進むと、物価高につながる可能性が高くなります。
日本の会社はいま、仕事の「デジタル化」を進めています。教育や医療など、私たちの生活につながる重要な分野でも、より便利にするためのデジタル化が加速しそうです。同時にデジタル赤字も広がり、円安や物価高もさらに進むかもしれません。
メモ
日本から世界に通用する技術・コンテンツを
2014年度に約2.1兆円だった日本のデジタル赤字の額は23年度、約5.4兆円まで広がりました。この赤字を減らすには、国内のデジタル技術を海外に負けないくらい強くするのが重要です。
学校でプログラミングの教育を充実させたり、IT(情報技術)の会社を支援したりするといった方法が考えられます。さらに日本の政府も、世界に通用するデジタルコンテンツをつくることを目標にかかげるようになりました。
みなさんが大人になったころには、世界に通用するデジタルの会社が生まれ、日本のデジタルコンテンツが世界で大人気になっていると期待したいです!
■解説者
崔真淑
エコノミスト 「グッドニュース アンド カンパニーズ」代表取締役
(朝日小学生新聞2024年11月1日付)

「朝小プラス」は朝日小学生新聞のデジタル版です。毎日の読む習慣が学力アップにつながります。1日1つの記事でも、1年間で相当な情報量に!ニュース解説は大人にもおすすめ。