
【国語編】☆From 灘
大学生時代のこと。食堂の隣の席から、二人の学生の話が聞こえてきました。
どうも二人は就職活動中で、うち一人はある有名な会社から内定をもらったけど、最初の数年間の配属先が東京から遠く離れたいわゆる「地方」なので断ろうか悩んでいるという話でした。私は大学へ進学する際に故郷を離れたものの、行き先が東京という都会であったため、複雑な思いでこの話を聞いていました。
ところが、その学生が深刻そうな声で明かした配属先とは、神奈川県の小田原市でした。東京から電車で2時間もかからない都市です。
あきれてその後の会話が耳に入ってこなかったのですが、一つ納得したことがありました。
平安時代の文学作品では、平安京から一歩でも出ると「とんでもなくさびしい田舎」という描写が当たり前です。文学的修辞とされることが多いのですが、いくらなんでも大げさすぎないかと、納得できていませんでした。
しかし、平安時代の文学作品の書き手や読み手、つまり平安京から離れて生活することがほとんどなかった貴族たちの「田舎」「地方」という感覚は、現代に東京から離れて生活したことのない人々のそれと似ているのではないかと気づいたのです。もちろん、小田原市の話は極端だとしても、東京の人が東京都の区部にある土地を「田舎」と呼ぶのを見聞きした回数は数えきれません。
実際のところはもちろん分かりませんが、当時の書き手や読み手にとっては自然な感覚だったのだろうと思います。

■灘中学・高校 国語科教諭 槇野祐大
(朝日小学生新聞2024年9月20日付)

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