空気や土、水からそこにいる生物を推定

Q 環境DNAとは?

A 環境中から採取される生物のDNA

解説者 瀧澤美奈子(科学ジャーナリスト)

生物の体からではなく、水や土壌、大気などの環境中から採取されるDNA(デオキシリボ核酸)を環境DNAといいます。

DNAとは生物の遺伝情報を記録している分子で、生物ごとに特徴のある並び方をもっています。環境DNAを生物ごとのデータと照合すれば、その場所にどのような生物がいる(いた)かがいっぺんにわかります。ある生物がいるかいないかの推定もできます。

私たちが住む地球は、生命にあふれる惑星です。小さな池の水面に浮かぶアメンボも、大空を飛ぶオオタカも、木の葉を落とす樹木も、土の中にいる目に見えない微生物も、それぞれに存在のあかしを周囲に残しています。

空気中にはごくわずかですが、そばにいる動物の毛、羽根、皮ふ細胞などがただよっています。動物園の近くの空気の中から環境DNAを調べると、園内の動物が特定できたという研究があります。北極に近いグリーンランドの凍った土の環境DNAから、200万年前の生態系がわかったこともあります。

環境DNAのアイデアは1980年代に提案されました。はじめは微生物が対象でしたが、2000年代には大型生物の特定が可能になり、活用の幅がぐんと広がりました。

Q なぜ注目されている?

A これまでの方法に比べて手軽に調べられる

解説者 瀧澤美奈子(科学ジャーナリスト)

環境DNAの調査は、これまでの方法に比べて簡単に自然の中にいる生物を調べられます。

とくに川や湖、海にいる生物の調査では、科学者だけでなく行政や会社、市民が参加する調査にも使われています。調査の結果、都市の用水路にめずらしい生き物がすんでいることや、郊外の川で肉食性の外来魚の生息地が急拡大していることなどがわかりました。

生物多様性の調査や、数が少ない生物の保護、外来生物の把握、漁業資源の管理などのために、生き物の種類や分布を知ることが必要です。これまでは生き物をつかまえるしかなく、生き物がかくれたり逃げたりして、正確に実態をつかむことは困難でした。

そこに登場したのが環境DNA。魚であれば、粘液やふんなどを水中に放出します。調査はバケツにくんだ水を調べるだけ。しかも水中にはDNAを素早く分解する微生物がいて、過去の生物ではなく、今いる生物がわかります。

2019年には東北大学教授の近藤倫生さんたちが大学・企業・行政・地域住民による環境DNAの観測網「ANEMONE」を立ち上げました。22年時点で全国の沿岸や川、湖の計1千か所で5千回以上の調査が行われ、約900種の魚が見つかっています。

環境DNAを調べるため、水路の水を採取する様子=2023年6月、佐賀市 ©朝日新聞社

最近のニュース

海洋物理と生態系を組み合わせた研究所発足

これまで沿岸中心だった環境DNAによる研究が、地球規模の課題解決にも応用されはじめました。地球温暖化により近年、海の環境が激変しています。私たちに身近なサンマやマグロをはじめ、海の生き物への影響が心配です。人間による利用と自然変動をいかに調和させるかが、今後ますます課題になります。

そこで今年1月、海洋研究開発機構(JAMSTEC)と東北大学が協力して水や大気の循環といった海洋物理学の情報と、環境DNAなどの生態系情報を組み合わせる研究を進める変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC)が発足しました。

■解説者
瀧澤美奈子
科学ジャーナリスト

(朝日小学生新聞2024年12月13日付)