朝日小学生新聞の連載小説「オオカミは海をめざす」が1月から始まりました。読みつがれる名作『おとうさんがいっぱい』の三田村信行さんがえがく、不思議な少年をめぐる物語。童心社から出版予定の作品の一部を、先取りして掲載します。今日は連載をより楽しむために、物語の世界をのぞいてみます。(森山妙子)

イリヤの変わった行動のわけは?
イリヤがぼくたちの目の前に現れたのは2年前の春のことだった――。
ユーキはモンド村に暮らす中学2年生。両親がつくった、居場所をなくした子どもたちのための家「ノア・ハウス」に住んでいます。ノア・ハウスには両親のほかにミト、ヒルデ、ミント、ギル、ラス、ワルト、モード、ジンという8人の子どもたち、そして、家庭教師で料理人のミールさんがいます。
ある日、ノア・ハウスのメンバーに「イリヤ」という名の少年が加わります。両手が土でよごれていたり、100キロ以上はなれたところから一晩で歩いてきたりと、少し変わっているイリヤ。みんなの大好きなミールさんお手製のミールケーキも食べません。
イリヤはどこからやってきたのか? どうして変わった行動をとるのか? ノア・ハウス、学校、うっそうとしたベートの森などを舞台にイリヤの謎をめぐる冒険が始まります。

この不思議な物語はどのように生まれたのでしょうか。作品にこめた思いや読者へのメッセージを、作者の三田村信行さん、さし絵を手がける北沢夕芸さんにそれぞれ聞きました。
作者・三田村信行さん
フランスの作品に影響受けた

こんな話 書いてみたい
――お話のアイデアはどこから生まれましたか。
フランスの作家アラン・フルニエの『モーヌの大将』という本があります。寄宿舎が舞台の話で、主人公の両親がそこの先生です。ある日、主人公は道に迷っておかしな屋敷にたどりつき、不思議な少女に出会います。
不思議な雰囲気と冒険の話が印象に残って、こんな話を書いてみたいと思いました。あとは、オオカミの話を入れたいとも考えました。
――なぜオオカミの話なのでしょうか。
昔、大学で「童話会」というグループに入っていました。「童話はたいてい動物が擬人化されている。だから動物を知らなければならない」と仲間が言うのでみんなで動物園に行きました。そこでのそのそ歩くオオカミを見てひかれました。それ以来、オオカミの物語を書いています。
今回の物語は過去に書いた『オオカミがきた』や『オオカミのゆめぼくのゆめ』が影響していて、今まで書いたオオカミの話の集大成といえます。
モヤモヤかかえて考えて
――読者にメッセージをお願いします。
「わからないもの」が残るのは作品にとって大事なことだと思います。テーマも、書いてある言葉も、すべてをわかる必要はありません。読み終わった後に、自分の中になにかモヤモヤしたものが残ったら、それをかかえこんで考えてみてください。
三田村信行(みたむら・のぶゆき)
1939年、東京生まれ。75年に刊行された『おとうさんがいっぱい』で注目される。2010年に『風の陰陽師』(全4巻)で第50回日本児童文学者協会賞を受賞。
さし絵・北沢夕芸さん
みんなを魅力的にかきたくて

――陰影の表現を線で細かくかきこんだ絵が、物語の世界にいざなうようです。かいてみてどうでしたか。
登場人物をみんな魅力的にかきたい、そして、物語の深みをこわさないようにしたいと思ってかいています。
学園ものかと思っていたら、物語は後半からがらりと変わります。後半で出てくる人たちとのバランスも考えています。
――このお話を読む人たちにどんな言葉をかけたいですか。
この物語でイリヤと出会うと、自由へのあこがれや、自由でいることの大変さについて考えるかもしれません。現実でも、自由に生きることは大変だけど楽しい。物語の隙間にあるものを想像したり感じたりして楽しんでください。
北沢夕芸(きたざわ・ゆうき)
1962年、長野県生まれ。84年に雑誌「BRUTUS」でデビュー。雑誌や書籍などで活躍。主な仕事に『学校クエスト』(作 中松まるは、童心社)のさし絵など。
三田村信行さんの本
「キャベたまたんてい」シリーズ
低学年から

キャベツの「キャベたまたんてい」が主人公の物語。これまでに26巻出ています。ゆかいな食べ物のキャラクターたちがなぞを解いて活躍します。
『おとうさんがいっぱい』
中学年から

ある土曜日、全国的に「おとうさん」がふえる現象が起こります。ふえる数は家によってさまざま。困った政府は――。
(朝日小学生新聞2025年1月3日付)
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