【国語編】☆From 灘

灘中学校のある兵庫県神戸市には、約150年前に海外に向けて開いた開港場のなごりとして中華街があります。中華街では毎年、旧暦のお正月(春節)を祝うお祭りが開かれます。

旧暦の元日にあたる日は年によって異なり、新暦の1月後半から2月半ばごろまでの間となります。

さて、今から千年ほど前、平安時代中期の小大君という女性の歌人が、旧暦の元日に次のような和歌をよんでいます。

いかに寝て起くる朝に言ふことぞ
昨日をこぞと今日をことしと

意味は、「どのように寝て起きた朝に言うのかしら。つい昨日のことを去年、今日のことを今年だなんて」といったものです。みなさんにも、お正月の新聞やニュース番組で「去年の12月28日に」というような表現を見聞きして、引っかかりを感じたことがあるのではないでしょうか。数日前だとわかっていても「去年」と言われると遠い過去のように感じ、そこに違和感が生じるのです。

「一年」という発想自体は自然のサイクルに基づいたものですが、「一年がいつから始まるか」という区切りは、人間が勝手に決めたものです。元日になった瞬間に、さっきまでとちがう世界になることはないわけです。

でも私たちは、元日の前後で「去年」「今年」と大きなちがいがあるように感じてしまいます。少し不思議で、おかしいですね。

イラスト・きつまき

灘中学・高校 国語科教諭 槇野祐大

(朝日小学生新聞2021年2月26日付)