約50万語がのる日本で一番大きな国語辞典「日本国語大辞典」が大工事中です。完成は2032年の予定だといいます。この大仕事をになう小学館の大野美和さんと辞書編集会社kotobaの荻野真友子さんに、どうやって辞典をつくるのか聞きました。(関田友衣)

30年ぶりの大工事 50万語以上を収録
「日本国語大辞典」は現在、30年ぶりの大改訂(内容の見直し)が進められています。みなさんが使っている小学生向けの国語辞典には、約3万語が収められていますが、「日本国語大辞典」はなんと約50万語。言葉の使い方を示す用例は、約100万ものっています。1冊には収まらず、全13巻+別巻という超巨大辞典です。
1910年代に刊行された「大日本国語辞典」を受けつぎ、72年に「日本国語大辞典」が生まれました。2000年には第2版ができ、去年、第3版改訂がスタート。50万語以上が掲載される見通しで、完成予定は32年です。
言葉の歴史と共に意味を示す
大野さんによると「日本国語大辞典」がほかの国語辞典とちがうのは「言葉の歴史が書いてある点」。一つの言葉には、いろいろな使い方がありますが、それぞれの最も古い使い方をわかる限りの範囲で掲載し、どのように変わっていったのか記されています。
「一般の国語辞典は、まず言葉の意味があり、その後に使い方が説明されます。しかし『日本国語大辞典』は、その言葉がどのように使われたかを元に、言葉の意味を示すのが特徴です」(大野さん)
荻野さんは、「日本国語大辞典」はつくり方も特殊だといいます。
じ‐ゆう【自由】 歴史は?
江戸時代には「便所」の意味も
「日本国語大辞典」第2版で「じゆう【自由】」は、まず「自分の心のままに行動できる状態」という意味が説明されています。
くわしくは「(イ)思いどおりにふるまえて、束縛や障害がないこと。また、そのさま。思うまま」「(ロ)(特に、中古・中世の古文書などで)先例、しかるべき文書、道理などを無視した身勝手な自己主張。多くその行為に非難の意をこめて使われる。わがまま勝手」という二つが示され、(イ)では「続日本紀」(777年)、(ロ)では「金勝寺文書」(1185年)などの資料から用例が記されています。
また江戸時代、「自由」は「ある物を必要とする欲求。需要」のほか、なんと「便所」という意味でも使われていました。江戸時代に関西地方でつくられた庶民文学「浮世草子」の作品(1701年)から、「自由(ジユフ)に立ふりして勝手に入て」という「自由=便所」の用例が紹介されています。
第3版改訂を進めている辞書編集者
荻野真友子さん
知らないことに日々出合えるのが楽しい

辞書編集会社のkotoba所属。「こども にほんのでんとう絵じてん」「例解小学漢字辞典」(どちらも三省堂)などの編集経験もある
大野美和さん
「日本国語大辞典」は言葉の歴史がわかる

小学館 辞書編集室編集長。担当した主な辞書は「ドラえもん はじめての国語辞典」「例解学習国語辞典第九版」(どれも小学館)など
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本などから言葉と用例を集める
「日本国語大辞典」の改訂は、どのように行われているのでしょう。第2版の改訂を参考にすると、まず改訂のリーダーをつとめる研究者たちからなる編集委員が、どの分野の言葉を重点的に見直すかを決めます。そして、基礎語、方言、中世、近世、近現代など、さまざまな分野の専門部会を立ち上げ、専門家を集めます。
kotobaの荻野真友子さんによると、「第2版では800人以上の専門家が参加しました」。当時は「語誌」とよばれる言葉の由来や意味、用法などの移り変わりを特に見直し、専門部会には、300人も集まったそうです。
専門部会では、まずどの資料から言葉をひろうか話し合います。「古事記」「日本書紀」から昭和の文学作品まで、その時代ごとに、影響力があった本などが資料になります。
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